ランサムウェア対策と感染したら|建設会社の初動と備え
編集・発行:KMC株式会社
ランサムウェア(データを暗号化して使えなくし、元に戻す対価を要求する不正プログラム)に感染したら、まず感染した端末をネットワークから切り離し、電源は切らずに残して、警察へ通報します。 警察庁は、慌てて電源を切るとログなどの侵入の痕跡が失われ、その後の調査が難しくなる可能性があると注意しています。備えとしては、侵入口になりやすいVPN機器などの更新とパスワード管理、暗号化に巻き込まれないオフラインのバックアップ、サイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)の3つが柱です。
建設会社でランサムウェアの被害が重いのは、工程と支払いが同時に止まるからです。工程表、施工図、発注データ、出来高の請求書、協力会社への支払いデータが一度に開けなくなると、現場は動いていても会社の仕事が止まります。この記事では、警察庁の統計で被害の実態を確かめたうえで、作業所と本社の初動の分担と、平時の備えを整理します。
警察庁の統計で見る被害の実態
| 項目 | 令和7年(2025年) | 令和8年(2026年)上半期 |
|---|---|---|
| 被害の報告件数 | 226件 | 123件(半期として統計を取り始めて以降で最多) |
| 被害企業の規模 | 中小企業が約6割 | 中小企業が約6割 |
| 侵入経路 | VPN機器が6割以上 | VPN機器が約5割 |
| 復旧の費用 | 総額1,000万円以上を要した組織が5割超 | 総額1,000万円以上を要した組織が6割 |
| 復旧の期間 | 1か月未満で復旧した組織は5割強にとどまる | 1か月未満で復旧した組織は5割弱にとどまる |
出典:警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」、同「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(費用・期間は被害組織へのアンケート結果)
警察庁は、近年はデータを盗んだうえで「支払わなければ公開する」と脅す二重恐喝が被害の多くを占めると説明しています。暗号化を元に戻せても、盗まれた発注者の情報や図面、協力会社の作業員の個人情報が公開される危険は残ります。IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織向けの1位は「ランサム攻撃による被害」です。
攻撃者はどこから入ってくるか
警察庁は、近年はインターネットに露出した箇所から遠隔操作で侵入する手口が多くを占め、標的型攻撃メールの添付ファイルによる感染は少なくなっていると説明しています。攻撃者は、未修正のぜい弱性、漏えいした認証情報や簡易なパスワード、設定の不備を悪用して侵入し、管理者の権限を奪いながら重要データやバックアップを探します。復旧を妨害するため、バックアップも一緒に暗号化される場合が多いとされています。
建設会社に当てはめると、次の場所が入口になり得ます。
- 本社のサーバーに社外からつなぐためのVPN機器やリモートデスクトップ
- 作業所に置いたルーター、ネットワークカメラ、NAS(ネットワークにつなぐファイル保存用の機器)
- 協力会社や設計事務所と図面をやり取りするためのアカウント
入口を減らす具体策は、パスワード管理のルールと二段階認証・多要素認証とはで解説しています。
公表されている建設業の被害事例
IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」は、日本ネットワークセキュリティ協会の調査をもとに、北陸の建設業(従業員規模20〜999名)の事例を紹介しています。
- VPN機器からの侵入で、パソコンとファイルサーバーがランサムウェアに感染した
- 年2回の頻度でリストア(バックアップからの復元)の訓練をしていたこともあり、発覚から5日後には基幹システムをバックアップから再稼働できた
- それでも各社内システムの利用再開には41日、リモートアクセスの利用再開には4か月を要し、社内のファイルの2割強を失った
- 原因・被害範囲の調査、復旧、再発防止に約2.5億円以上、45人月を費やし、個人情報保護委員会への報告などの対応も行った
- 感染の1か月前にVPN機器の入れ替えを社内で議論していたが、後継機種を約半年待つと決めた間に感染を許した
復元の訓練を重ねていた会社でも、元の状態に戻るまでには月単位の時間がかかっています。入口の機器の更新を先送りしないことと、バックアップから戻す訓練をしておくことの両方が大切だと分かる事例です。
感染したらの初動:作業所と本社の分担
| 順番 | 作業所(発見した人) | 本社(情報システム担当・経営者) |
|---|---|---|
| 1 | LANケーブルを抜く、Wi-Fiを切るなどで端末をネットワークから切り離す。電源は切らない | 連絡を受けたら、ほかの作業所や本社サーバーへの広がりを確認する |
| 2 | 画面に出た脅迫文を写真に撮る。端末を操作し続けない | ログなどのデータを保全し、対応の体制を整える |
| 3 | 本社の決められた連絡先に電話で伝える(メールが使えない前提で) | 警察や関係機関へ早期に通報する |
| 4 | 紙の工程表と連絡先一覧で当面の作業を続ける | 個人データの漏えいのおそれがあれば、個人情報保護委員会への報告の要否を確認する |
| 5 | 協力会社への連絡は本社の指示を待つ | 保険会社、発注者、協力会社への連絡の順番を決める |
警察庁は、初動では被害拡大の防止とログ等のデータ保全を行い、組織の対応態勢を整えたうえで調査・復旧に取り組むべきとしています。また、被害が発覚したら早期に警察や関係機関へ通報すること、BCPなどに連絡先を整理して書いておくと被害発生時に円滑に連携できることを挙げています。警察は、状況に応じて初動対応への助言や復号ツールの提供などの支援ができるとしています。
作業所の発見者に求めることは「切り離す」「電源は切らない」「電話で知らせる」の3つだけに絞り、作業所の掲示物や安全書類のファイルに挟んでおくと、いざというときに迷いません。個人データの漏えいの報告については情報漏洩の原因と対策で、報告期限を含めて整理しています。
身代金は払うべきか
警察庁は、身代金の支払いについて「犯罪グループ等の活動資金となることが懸念される」「暗号化されたデータの復号が保証されるわけではない」という趣旨を被害者に説明していると明らかにしています。日本損害保険協会も、ランサムウェアの被害で支払った身代金はサイバー保険の対象にならないとしています。
身代金を払わずに戻すために必要なのが、暗号化されないバックアップです。オランダ警察やユーロポール(欧州刑事警察機構)などが主導する「No More Ransom」は、一部のランサムウェアについて復号ツールを無償で公開しています。すべての種類に対応しているわけではないので、頼り切らずにバックアップで備えます。
平時の備え:建設会社のBCPに入れる5項目
警察庁が被害企業に行ったアンケートでは、BCPを策定済みの組織は約18%でした。警察庁は、ランサムウェアによる暗号化は地震などの物理的災害とは被害の状況が異なり、調査・復旧や広報のあり方も異なるため、サイバー攻撃を想定したBCPを事前に準備する必要があるとしています。地震を想定したBCPに、次の5項目を足してください。
- 止まると困る業務の順番: 協力会社への支払い、出来高の請求、工程の連絡、竣工検査の書類。どれを何日目までに戻すかを決める
- 紙で続ける手段: 作業所ごとの工程表、協力会社と発注者の連絡先一覧を、紙でも保管しておく
- オフラインのバックアップ: 警察庁は暗号化対策としてオフラインバックアップを挙げている。方法はバックアップの方法と3-2-1ルールを参照
- 連絡先一覧: 警察(都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口)、保険会社、システムの保守会社、取引銀行の連絡先をBCPに書いておく
- 訓練: 作業所の発見者役と本社の判断役で、上の初動表を年1回なぞる
被害の費用に備える保険の考え方はサイバー保険とはで、工事保険との違いを含めて解説しています。
【チェックリスト】今月確かめること
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| VPN機器やルーターのソフトウェアは最新か | 主な侵入経路で、警察庁も速やかな対応が必要としている |
| 社外からつなぐ入口に多要素認証がかかっているか | 漏えいした認証情報で入られるのを防ぐ |
| バックアップの一部がネットワークから切り離されているか | 攻撃者はバックアップも暗号化しようとする |
| バックアップから実際に戻せるか試したか | 戻せないバックアップは備えにならない |
| 作業所に初動の3項目と連絡先を掲示しているか | 発見者が迷わず動ける |
よくある質問
Q. 感染に気づいたら、まずパソコンの電源を切るべきですか。 A. 切らずに、ネットワークから切り離してください。警察庁は、慌てて電源をオフにするとログなどの痕跡が失われ、調査が難しくなる可能性があると注意しています。
Q. 中小の建設会社も狙われますか。 A. 警察庁の統計では、被害企業の約6割が中小企業です。攻撃者は侵入できる隙のある組織を探して攻撃するとされており、規模が小さいことは安全の理由になりません。
Q. 身代金を払えばデータは戻りますか。 A. 保証はありません。警察庁は、復号が保証されるわけではないことと、犯罪グループの活動資金になる懸念を被害者に説明しています。
まとめ
ランサムウェアは、侵入口の更新と認証、オフラインのバックアップ、サイバー攻撃を想定したBCPの3つで備えます。感染したら、端末を切り離し、電源は切らず、電話で本社に知らせる。建設会社では、工程と支払いを止めない段取りまでBCPに書いておくことが、被害を小さくする一番の近道です。
出典・参考
- 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」特集Ⅱ ランサムウェアをめぐる脅威の情勢と警察の取組(令和8年3月)、「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年9月): https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/index.html
- IPA(情報処理推進機構)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」(2026年3月27日)掲載の事例(出典:日本ネットワークセキュリティ協会「インシデント損害額調査レポート第2版 別紙『被害組織調査』」): https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/about.html
- IPA(情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日): https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html
- 日本損害保険協会「サイバー保険」: https://www.sonpo.or.jp/cyber-hoken/
- No More Ransom: https://www.nomoreransom.org/ja/index.html
※ 2026年10月14日時点で各資料を確認しています。
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