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建築現場にAIが定着する条件|DX支援33年の実務者に聞く

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建築現場にAIが定着する条件|DX支援33年の実務者に聞く

建築の現場にAIを入れる話は、ツールの紹介ばかりが先に立ちます。しかし実際に困っているのは、導入した後に誰も使わない、社長だけが前のめりで現場が動かない、という一段手前の問題です。

今回は、住宅建設用の足場会社で33年にわたり現場と経営に携わり、専務取締役まで務めたのち独立して中小企業のAI・DX支援を行っている、株式会社SORA-NEXTAI 代表取締役の五十嵐稔氏に話を聞きました。ご本人が最初に断ったのは「多数のAI導入事例を持つコンサルタントという立場ではない」ということでした。そのかわり、現場側の景色を33年見てきた人が、いまAIを持ち込む側に回って何に詰まっているかを、隠さずに話してくれています。

導入事例の自慢話ではなく、うまくいかない理由の話です。自社で同じ壁にぶつかっている建設会社ほど、読む価値があります。

取材先プロフィール

  • 五十嵐 稔(いがらし みのる)氏
  • 株式会社SORA-NEXTAI 代表取締役/AI・DXコンサルタント
  • 住宅建設用の足場会社に33年勤務。工事の段取り、職人手配、見積り、書類整備を担当し、専務取締役を務める。社内へのパソコン導入・ネットワーク構築や業務効率化プロジェクトにも早くから関わる
  • 現在は大阪を拠点に、中小企業へのAI・DX導入支援、企業向けAI研修、Google Workspace導入支援などを行う
  • 公式サイト: SORA-NEXTAI

33年の現場が出した答えは「段取りの属人化」

建設業でいちばん大きな無駄はどこにあるか、という問いへの答えは即答でした。工事の段取りです。

「仕事って受けたら段取りせなあかんじゃないですか。これは足場だけじゃなくて建設業ぜんぶなんですよ」(五十嵐氏)

五十嵐氏自身、多いときで1日70人規模の職人の手配とスケジュール管理を1人で回していたといいます。予定表を常に持ち歩き、休みの日も手が離せない。しかもその情報は本人の頭の中と手元の予定表にしかありません。

「やってる人だけがものすごくしんどい。属人化してるから誰もできないし、引き継ぎもできない」(五十嵐氏)

この構造は、担当者が優秀であるほど強固になります。回せてしまうから仕組みにする必要が生まれず、いざ引き継ぐ段になって、誰も代われないことが判明する。属人化したノウハウをどう共有可能な形に変えるかは、AI以前の課題として建築の会社にそのまま残っています。

受注はレスポンスの速さで決まっている

段取りの属人化がなぜ放置されるのか。裏側には、速さが受注に直結するという建設業の構造があります。

「見積りがすぐ来るから嬉しいわ、とお客さんに言われていました。逆に遅いやつは、大阪でそんな仕事してたら気に入られない。それで取りこぼしもします」(五十嵐氏)

見積りと返答が速い会社が仕事を取る。だから担当者は、外出先でも即答できるように情報を抱え込みます。抱え込むほど属人化は進み、一方で速さは失われない。仕組み化の動機が生まれにくい理由がここにあります。

裏を返せば、レスポンスの速さを個人の記憶力と気合いから、仕組みに移せた会社が勝ち残るということでもあります。

速さの正体は、20年前に作った「外でも仕事ができる環境」

では、五十嵐氏はなぜ速く返せたのか。答えは根性ではありませんでした。

「僕は外に出ていても仕事ができる環境を、もう何十年も前から作っていたからです」(五十嵐氏)

きっかけはクラウド活用について書かれた1冊の本で、そこからGmailを使い始めたといいます。メールとドライブに資料が入っていれば、資料を持ち歩いているのと同じ状態になる。地図と現場情報も同じ場所にある。だから移動中でも段取りが組めて、見積りが返せた。

いまなら、送られてきた案件のメールをそのままAIに渡せば、住所まで含めて予定として整えてくれる、という使い方もしている。特別な仕組みではなく、日々の情報の置き場所を変えただけです。施工管理のデジタル化は下から順に積むという考え方とも重なります。

それでも多くの現場は、ノートとホワイトボードのまま

一方で、支援先として出会う建設会社の実態は違います。

「建設業はGoogle Workspaceなんてまるきりやっていなくて、だいたいエクセルです。マクロを組んでいるかというとそんなこともなくて、合計を出す程度」(五十嵐氏)

工事の予定はノートとホワイトボード。1日に入る工事が10件あるとして、それが1日で終わるのか2日かかるのかも紙の上で管理されている。日程が延びたときに、なぜ延びたのかという元の情報はどこにも残らない。

図面と写真も同じです。いまだに紙で手渡しが主流で、担当者が現場に出ていれば渡せない。ここが止まると、現場の待ち時間がそのまま工程の遅れになります。

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「AIの前に、Google Workspaceだけでも十分に業務改善になる」

印象的だったのは、AI・DX支援を仕事にしている本人が、AIを最初に勧めていないことです。

「僕ならGoogle Workspaceだけを導入してもらいます。それを使うだけでも十分な業務改善になると思っているんですよ」(五十嵐氏)

具体的には、カレンダーの予定に図面から写真までのリンクを貼り、職人にも閲覧できる権限を渡しておく。それだけで、手渡しのために人が動く必要がなくなります。文字入力が苦手でも、いまは音声入力で足ります。

つまり、多くの建築会社にとっての第一歩は生成AIではなく、情報を1か所に置いて全員が見られる状態を作ることです。現場を遠隔で確認できる状態も、その延長線上にあります。

本当の壁は道具ではなく、変化への拒絶反応

やることは決まっている。それでも進みません。

「みんな、変化に対して拒絶反応する人が多いじゃないですか。消えたらどうしよう、切り替わるまでがしんどい、と。音声で入力するだけですよと言っても、いや無理やわ、と返ってくる」(五十嵐氏)

社員のITリテラシーが低い、という説明のされ方についても、五十嵐氏の見方ははっきりしていました。自分より若い社員ですら低い、という実感を語ったうえで、こう続けます。

「それは僕は言い訳やと思いますけどね」(五十嵐氏)

できないのではなく、変えない理由として使われている。だとすれば、対処すべきはツールの操作研修ではなく、変えたほうが得だと本人が思える状態をどう作るかになります。

定着の条件は、人事評価と労働環境に接続すること

ではどう作るのか。五十嵐氏が挙げたのは、評価と労働条件でした。

「AIが浸透しない理由として、人事評価と結びついていないから、という指摘があります。これはさすがだなと思いました」(五十嵐氏)

新しいツールを使いこなすことが評価に反映される。あるいは、使えるようになったら休みを増やす、と経営者が先に宣言してしまう。習得が本人の得になる形にしないかぎり、業務が増えただけの人が出て終わります。

研修を1回やって終わりにすると、3か月後には元に戻ります。AI研修を建設会社に定着させる方法でも触れているとおり、定着の設計は研修の設計とは別物です。

経営者と現場の温度差、そして過剰な期待

もうひとつの壁が、経営者と現場のあいだの温度差です。社長が前のめりでも、社員がついてこない。逆に、社長のAIへの期待が高すぎることもあります。

「10メートルってやつを5メートルに縮めてくれるやろ、と言われるんです。確かにAIは縮めますけど、図面のように数値データを持っているものは、そこまでできない」(五十嵐氏)

期待値の設定を最初にやらないと、できないことが判明した時点で「AIは使えない」という結論になり、次の一歩がなくなります。何を任せて何を任せないかを、着手前に共有しておく必要があります。

なお五十嵐氏は、支援はできるだけ対面で行うと決めています。関西圏を中心に活動しているのも、1回きりの支援で終わらせず、長く付き合える関係を作りたいからだといいます。

積算と図面は、まだ正直に壁がある

数量拾いや積算の自動化についても率直でした。五十嵐氏自身、仮設計画図(足場の図面)を作るAIを構築しようと、図面を読ませる仕組みや積算の考え方を作り込む試みを進めていましたが、途中で頓挫したといいます。

積算業務の悩みが非常に大きいことは両者の一致した見方でしたが、複雑な図面の読み取りから数量を出すまでを自動化するには、まだハードルがあります。既存の積算ソフト側がAPIを公開していないため、外部の仕組みとつなげないという事情もあります。

この領域については、図面からの数量拾い出しにAIは使えるかと建築向け積算ソフト・積算AIの選び方で現時点の実力と使い分けを整理しています。できる範囲を見誤らないことが、結果的に導入を前に進めます。

補助金があっても、中小企業はそこで止まる

制度面についても指摘がありました。補助金や助成金が用意されていても、多くの中小企業には立て替えの体力がありません。申請して採択されても、支払いが先に来る形では動けない会社が現実に多い。

さらに、社長が乗り気で相談まで来ても、社内調整が進まず数か月止まってしまうことがある、という話もありました。導入の障害は技術ではなく、資金繰りと社内の合意形成のところにあります。

取材を終えて

話を通して一貫していたのは、道具の前に順番がある、という視点でした。情報を1か所に集めて全員が見られる状態を作る。速さを個人の頭から仕組みに移す。そのうえで、新しいやり方を覚えた人が得をする評価にする。AIはその先に置くものだ、という整理です。

段取りの属人化は、建築の会社であれば規模を問わず抱えています。まずは自社の工事予定と図面・写真が、担当者以外にも見える場所にあるかどうかから確認してみてください。

取材協力

株式会社SORA-NEXTAI(代表取締役 五十嵐 稔 氏)

公式サイト: https://sora-nextai.com/

YouTube「現場社長のAI活用チャンネル」: https://www.youtube.com/@SORA-NEXTAI

AI・DXの実務活用について継続的に情報発信をされています。

※本記事は2026年8月28日に実施したオンライン取材をもとに構成しています。発言は主旨を変えない範囲で、読みやすさのために整文しています。

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