VE・CD提案の作り方|「あと500万下げてほしい」に削る以外で応える技術
「あと500万、なんとかならないか」
見積を出した後、発注者からこう言われる場面は、建築の営業・積算担当なら誰でも経験します。このときの応え方は3つしかありません。利益を削って値引きする、仕様を落として金額を下げる、そして工夫で金額を下げる。
3つ目の「工夫」がVE・CD提案です。値引きは自社が痛み、単純な仕様ダウンは発注者が痛む。工夫の提案だけが、双方の痛みを最小にして予算と要求を両立させます。そして提案できる会社とできない会社の差は、才能ではなく、探し方と書き方の型を持っているかどうかです。
VEとCDは別物として使い分ける
まず言葉の整理です。混同されがちですが、性質が違います。
- VE(バリューエンジニアリング): 機能・性能を維持したまま、コストを下げる代替案。「同じ性能の別工法・別材料」が典型です
- CD(コストダウン): 仕様・グレードの変更を伴う減額。機能や見た目のどこかが変わることを、発注者が了承して選ぶものです
この区別は、提案書の書き方に直結します。VEは「性能が変わらない根拠」を示す提案であり、CDは「何が変わるかを正直に示し、選んでもらう」提案です。CDをVEのように装って提案すると、竣工後に「聞いていた話と違う」という最悪の紛争になります。
提案を探す4つの引き出し
減額案は、ゼロから発明するものではなく、決まった引き出しから探すものです。
引き出し1: 工法・材料の代替
同等性能の別材料、施工性の良い別工法。外壁の仕上げ変更、乾式工法への変更、既製品への置き換えなどです。ここで効くのが自社の発注実績データです。「どの材料・工法が実勢いくらか」を知っている会社ほど、根拠のある代替案を出せます。協力会社に「この図面、おたくならどう安く作る?」と聞くのも、優れた引き出しの開け方です。現場を知る職長の代替案は、机上のVE集より実用的なことが多いものです。
引き出し2: 仕様の適正化
過剰な性能を、要求水準に合わせて整える提案です。バックヤードの仕上げグレード、使用頻度の低い部屋の設備仕様、意匠上見えない部分の納まり。ここはCDの領域なので、「どこが変わるか」を部屋別・部位別に明示します。品質管理計画の重点の考え方と同じで、メリハリの提案は発注者の合理性に訴えます。
引き出し3: 数量・設計の合理化
スパン割りや階高の調整、部材の標準化・規格化、複雑な形状の単純化。設計の根幹に関わるため設計者との協議が必須ですが、効果額は最も大きい引き出しです。設計変更を伴う提案は、構造・法規への影響確認までがセットになります。
引き出し4: 工程・調達の工夫
工期の平準化による労務費の削減、早期発注による価格確定、分離発注の統合(またはその逆)、支給材の活用。金額は地味でも、品質を一切変えずに出せる提案として価値があります。
提案書の型: 1案1枚、5つの項目
探した案は、1案1枚の提案書に整理します。書く項目は5つです。
- 現設計と提案内容: 何を何に変えるか(図・写真があれば添える)
- 減額効果: 金額と、その算出根拠(数量×単価差)
- 性能・品質への影響: VEなら「変わらない根拠」、CDなら「変わる内容」を正直に
- 工程・他工事への影響: 納期が変わるか、他の工種に波及するか
- 判断期限: いつまでに決めれば、この提案が有効か(発注や製作のリードタイムから逆算)
とくに5の判断期限は忘れられがちですが、実務上は生命線です。VE提案の多くは、時期を逃すと採用不能になります。「早く決めるほど選択肢が多い」ことを、期限つきで示すのが提案のプロの作法です。
複数案は、効果額順に一覧表(案名・効果額・影響の有無・期限)を付けて出します。発注者は一覧から「これとこれを採用」と選べるため、協議が速く進みます。
設計者との協議: 敵ではなく共同作業者として
VE・CD提案は、設計者のデザインと判断への変更提案でもあります。ここでの振る舞いが提案の成否を分けます。
- 提案は発注者より先に、または同時に設計者へ示す。設計者の頭越しに発注者と話を進めると、以後のすべての協議が硬直します
- 「設計が高い」ではなく「予算に収める共同作業」という位置づけで臨む。減額の必要性は発注者の予算事情であり、設計の非ではありません
- 意匠の要所(設計者がこだわる部分)は残し、見えない部分・機能部分から提案する。全部を削りに行く提案は、全部を拒否されます
採用された提案は、設計図書への反映(変更図・仕様書の改訂)と、契約変更の手続きまで確認して完了です。口頭合意のままの仕様変更は、後日の紛争の種になります。
提案が通らない3つの理由
型どおり作っても採用されない提案には、共通の敗因があります。
- 効果額が小さすぎる案を並べた: 数万円の案を20件出すより、大きな案3件に絞る方が検討されます。発注者の意思決定コストを考えれば、件数は力ではありません
- 相手の優先順位を外した: 発注者が守りたいもの(エントランスの意匠、テナントへの見栄え、維持費)を削る提案は、金額が大きくても選ばれません。減額協議の冒頭で「変えたくないものはどこですか」と聞いてしまうのが、遠回りに見えて最短です
- 検討の材料が足りない: 「安くなります」だけで、性能比較・実績・保証の扱いが書かれていない提案は、設計者が承認の責任を負えません。通したい案ほど、相手が社内・施主に説明できる材料まで揃えて渡します
提案は出した瞬間ではなく、相手が誰かに説明する瞬間に採否が決まる。この視点を持つと、提案書の書き方が変わります。
受注前VEと受注後VEは、別の競技
同じVEでも、時期によって性質が異なることも押さえておきましょう。受注前(見積競争中)のVE提案は、競合との差別化であり、効果額は受注価格に反映されて発注者のものになります。受注後のVEは、契約金額の中での工夫であり、縮減額の扱い(全額減額か、一部を施工者の利益として認めるか)は協議事項になります。
受注後VEの縮減分配は、契約や覚書で先に決めておくのが理想です。「工夫しても全額召し上げ」では、施工者に提案の動機がなくなり、結果として発注者も損をする。この構造を発注者に説明し、双方が得をする分配(折半など)を提案すること自体が、成熟した施工者の交渉です。
やってはいけない減額
最後に、踏んではいけない地雷を明記します。構造・防水・防火・法規に関わる性能の低下を、発注者に正確に伝えずに行うこと。数年後に問題が出たとき、「減額のためだった」は免責になりません。また、協力会社への一方的な指値で帳尻を合わせる「下請けへの丸投げVE」は、品質低下と関係悪化で必ず高くつきます。減額提案とは、自社の工夫と知恵を売る行為であって、リスクや負担を誰かに付け回す行為ではない。この一線を守る会社が、長期の信頼を獲得します。
まとめ
VE・CD提案は、VEとCDの区別を明確にし、4つの引き出し(代替・適正化・合理化・調達)から探し、1案1枚・判断期限つきの型で書き、設計者と共同作業の姿勢で協議する。この型を持てば、減額要請は「削られる場面」から「工夫を売る場面」に変わります。そして予算に収めた実績は、その発注者からの次の相談として、必ず返ってきます。
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