月次原価管理のやり方|実行予算と発生原価を突き合わせる月イチの習慣
「決算で判明する赤字」をなくすのが月次原価管理
実行予算を組んでも、工事が終わるまで予算と実際を見比べなければ、予算は着工前の願望で終わります。完成してから赤字が判明しても、打てる手はもうありません。月に一度、発生した原価と予算を突き合わせ、完成時の着地を予測し、ずれていれば工事中に手を打つ。これが月次原価管理です。
大がかりな仕組みは要りません。この記事では、中小の建設会社が最小の手間で回すことを前提に、月次のルーチンを解説します。前提となる実行予算の組み方は実行予算書の作り方を参照してください。
月次で見る3つの数字
毎月把握するのは、工事ごとに次の3つです。
- 発生原価(累計): 協力会社からの請求・出来高査定額、材料費、労務費、経費の累計。要は「ここまでにいくら使ったか」
- 出来高(進捗): 工事がどこまで進んだか。工種ごとの進捗率から算出します
- 完成時の着地見込み: 「この調子で行くと、最終原価はいくらになるか」。発生原価に、残工事の予想原価を足したもの
多くの会社は1だけを見て「使った額が予算内だから大丈夫」と判断しますが、これは危険です。原価が予算の半分でも、出来高が4割なら、その工事は予算オーバーのペースで走っています。発生原価は出来高とセットで見て初めて意味を持ちます。
月次の締めルーチン: 4つの手順
毎月の作業は、締め日を決めて次の4手順で回します。
手順1: 原価を工事別・工種別に集計する
協力会社の請求書・出来高報告を、実行予算と同じ工種区分で集計します。ここで効くのが、予算の行と注文書を1対1にしておく設計です(予算編成時の鉄則)。注文書単位で集計すれば、そのまま予算と比較できます。請求が来ていなくても作業が進んでいる分(未請求の出来高)は、概算で載せておきます。請求ベースだけの集計は、実態より1〜2か月楽観的に見えるからです。
手順2: 出来高を工種別に評価する
各工種の進捗率を、現場担当者が自己申告します。厳密な出来高査定は不要で、1割刻みの感覚値で十分です。大事なのは毎月同じ人が同じ基準で付けることと、「着手済み=50%」のような甘い自動判定をしないことです。
手順3: 着地見込みを更新する
工種ごとに「残りをいくらで終えられるか」を見積り、発生原価に足します。発注済みの工種は契約残高でほぼ確定、未発注の工種は予算額か最新の見積額。この着地見込みと実行予算の差が、その工事の現在の成績です。
手順4: 差異の理由を一言で記録する
予算とずれた工種について、理由を短く記録します。「鋼材単価上昇」「開口追加の変更対応、請求協議中」「拾い漏れ」。この一言の蓄積が、会社の見積精度を上げる最良の教材になります。理由は自由記述にせず、「単価変動・数量差異・追加変更・手戻り・その他」の5分類から選んで一言を添える形にすると、後から集計して傾向を見られます。
原価会議: 30分で回す議事の型
月次の数字は、会議で使われて初めて意味を持ちます。工事ごとに次の3点だけを確認する30分の会議を毎月固定で置きます。
- 着地見込みは先月から動いたか: 動いた工事だけ、理由と対策を担当者が説明します。動いていない工事は飛ばします
- 未請求・未精算の増減はないか: 追加変更工事の請求漏れは、この場で拾います。「追加でやった作業で、まだ金額の合意が済んでいないもの」を毎月尋ねる習慣が、請求漏れの最大の防波堤です
- 資金繰りへの影響: 入金予定(出来高請求)と大口支払いの時期を確認します。利益が出ていても、入金より支払いが先行すれば資金は詰まります
会議の狙いは犯人探しではなく、早期発見です。悪い数字を早く出した担当者が評価される運営にしないと、数字は会議の直前まで隠されるようになります。
ミニケース: 着地見込みが3か月目に動いた工事
月次管理の効果は、実例で見るとよく分かります。ある事務所ビル新築工事(請負2.4億円)での話です。
着工3か月目の月次で、鉄骨工種の着地見込みが予算を数百万円上回る更新がされました。理由欄には「鋼材市況の上昇で、未発注だった付帯鉄骨の見積が予算超過」。この時点で工事は基礎段階、鉄骨本体は発注済みで価格固定、付帯分だけが未発注でした。
対策の選択肢は3つありました。付帯鉄骨の仕様見直し(VE)、他工種の予算での吸収、発注時期の前倒しによる価格確定。検討の結果、設計者にVE提案を出しつつ、内装の未発注分を相見積で締める方針を採り、最終的に着地は予算内に収まりました。
重要なのは、この判断が着工3か月目にできたことです。月次管理がなければ、付帯鉄骨の超過は発注の段階で「仕方なく」確定し、吸収策を打つ時間はなかったはずです。着地見込みの更新とは、こうした「まだ打ち手のあるうちの警報」を鳴らす仕組みです。
月次の数字は見積にも返す
月次原価管理のもうひとつの価値は、完成後の総括を通じて見積精度が上がることです。工事完了時に、工種別の予算と最終原価の差異一覧を見積担当に共有し、次の見積の単価・歩掛に反映します。「防水は毎回予算を超える」「仮設費は余る傾向」といった自社の癖は、月次データの蓄積からしか見えてきません。原価管理を現場の管理で終わらせず、受注の武器に変える回路です。
経営者向け: 全社を1枚で見る
工事ごとの管理と別に、経営者には全工事の一覧が必要です。工事名・請負額・出来高・着地見込み・予算差・先月からの変動、の6列を並べた1枚があれば、会社全体の完成工事利益の見通しが毎月つかめます。変動のあった行だけ担当者に聞けばよいので、経営者の確認時間は月30分で済みます。銀行との対話でも、この1枚を基にした説明は「どんぶり勘定の会社」との決定的な違いを生みます。
つまずきやすいポイント
- 集計が締め日に間に合わない: 原因の多くは、請求書の回収と工種への振り分けが月末に集中することです。協力会社への請求期日の周知と、日々の発注・請求の都度入力で平準化します
- 小さな工事を対象外にする: 金額の小さい改修工事ほど、原価がどんぶりになりがちです。簡易版(工種5行)でよいので全工事を対象にします
- 予算のない工事が混ざる: 予算未編成の工事は月次管理の土俵に乗りません。「予算がなければ着工しない」を原則にすることが、月次管理の前提条件です
手作業がつらくなったら仕組み化する
Excelでの月次管理は、並行する工事が増えるほど集計の負担が重くなります。工事別の原価入力と予算対比をクラウドで一元化すれば、締めの集計作業はほぼ自動になり、経営者はいつでも最新の着地見込みを見られます。案件管理と原価入力を一体で扱う仕組みについては、ツナギーの紹介記事で解説しています。
ツールを入れる場合も、この記事の月次ルーチン(出来高とセットで見る、着地見込みを更新する、差異の理由を残す)は変わりません。仕組みは集計を楽にするだけで、判断は人の仕事です。
まとめ
月次原価管理は、「発生原価と出来高をセットで見る」「着地見込みを毎月更新する」「差異の理由を一言残す」「30分の会議で使う」の4点で回ります。完璧な精度より、毎月続く軽さを優先してください。3か月続けば、決算まで利益が分からない状態から確実に抜け出せます。
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