建築工事の月次原価管理のやり方|締めの4手順と原価会議の型
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編集・発行:KMC株式会社
月次原価管理とは、工事ごとに毎月、発生原価(累計)・出来高・完成時の着地見込みの3つを実行予算と突き合わせ、ずれた工種に工事中のうちに手を打つ管理のことです。 やり方は、締め日を決めて「①原価を工事別・工種別に集計する、②出来高を評価する、③着地見込みを更新する、④差異の理由を記録する」の4手順を回し、その結果を30分の原価会議で使う、の流れです。
「決算で判明する赤字」をなくすのが月次原価管理
実行予算を組んでも、工事が終わるまで予算と実際を見比べなければ、予算は着工前の願望で終わります。完成してから赤字が判明しても、打てる手はもうありません。大がかりな仕組みは要らず、必要なのは毎月同じ日に同じ手順で数字を締める習慣です。前提となる実行予算の組み方は実行予算書の作り方を参照してください。
月次で見る3つの数字
毎月把握するのは、工事ごとに次の3つです。
- 発生原価(累計): 協力会社からの請求・出来高査定額、材料費、労務費、経費の累計。要は「ここまでにいくら使ったか」
- 出来高(進捗): 工事がどこまで進んだか。工種ごとの進捗率から算出します
- 完成時の着地見込み: 「この調子で行くと、最終原価はいくらになるか」。発生原価に、残工事の予想原価を足したもの
多くの会社は1だけを見て「使った額が予算内だから大丈夫」と判断しますが、これは危険です。原価が予算の半分でも、出来高が4割なら、その工事は予算オーバーのペースで走っています。発生原価は出来高とセットで見て初めて意味を持ちます。
【早見表】費目は完成工事原価報告書の4区分に合わせる
月次で集計する費目は、決算で作る「完成工事原価報告書」(建設業法施行規則の別記様式で定める財務諸表の一つ)の区分に合わせると、月次と決算の数字がつながります。各科目の内容は国土交通省の告示(勘定科目の分類)で次のように定められています。
| 区分 | 告示での内容(要旨) | 建築工事の月次集計での例 |
|---|---|---|
| 材料費 | 工事のために直接購入した素材・半製品・製品等(仮設材料の損耗額等を含む) | 元請が直接買う生コン・鋼材 |
| 労務費 | 直接雇用の作業員への賃金・給料・手当等。大部分が労務費である工種・工程別の請負契約は含めて記載できる(うち労務外注費) | 自社の常用作業員、手間請け |
| 外注費 | 素材・製品等を作業とともに提供して工種・工程別の工事の完成を約する契約の支払額(労務費に含めたものを除く) | 材工共の専門工事 |
| 経費 | 上記以外の費用。動力用水光熱費、機械等経費、地代家賃、保険料、従業員給料手当、法定福利費など(うち人件費) | 現場事務所の賃料、現場管理者の給与 |
月次の工種区分は実行予算の行と同じにし、費目は上の4区分のどれかに振り分けます。なお、引渡しを終えていない工事の原価は、決算では「未成工事支出金」として計上されます。
月次の締めルーチン: 4つの手順
毎月の作業は、締め日を決めて次の4手順で回します。
手順1: 原価を工事別・工種別に集計する
協力会社の請求書・出来高報告を、実行予算と同じ工種区分で集計します。予算の行と注文書を1対1にしておけば、注文書単位の集計がそのまま予算と比較できます。請求が来ていなくても作業が進んでいる分(未請求の出来高)は、概算で載せておきます。請求ベースだけの集計では、請求が届くまでのずれの分だけ、実態より楽観的に見えるからです。
手順2: 出来高を工種別に評価する
各工種の進捗率を、現場担当者が評価します。厳密な出来高査定は不要で、1割刻みの感覚値で十分です。大事なのは毎月同じ人が同じ基準で付けることと、「着手済み=50%」のような甘い自動判定をしないことです。出来高の測り方は民間工事の出来高管理で解説しています。
手順3: 着地見込みを更新する
工種ごとに「残りをいくらで終えられるか」を見積り、発生原価に足します。発注済みの工種は契約残高でほぼ確定、未発注の工種は予算額か最新の見積額。この着地見込みと実行予算の差が、その工事の現在の成績です。
手順4: 差異の理由を一言で記録する
予算とずれた工種について、理由を短く記録します。理由は自由記述にせず、「単価変動・数量差異・追加変更・手戻り・その他」の5分類から選んで一言を添える形にすると、後から集計して傾向を見られます。この分類は、完工後の赤字工事の原因分析にもそのまま使えます。
【計算例】出来高と着地見込みを1工種で計算する
以下は仮の数字による計算例です。ある工種の数字が次のとおりだったとします。
- 実行予算: 2,000万円
- 発生原価(累計): 1,000万円
- 出来高: 40%
- 残工事の予想原価: 発注済みの契約残高から1,300万円
- 出来高に見合う予算: 2,000万円 × 40% = 800万円。発生原価1,000万円はこれを200万円上回っており、予算超過のペースです
- 着地見込み: 1,000万円 + 1,300万円 = 2,300万円
- 予算との差: 2,300万円 − 2,000万円 = 300万円の超過見込み
「予算の半分しか使っていない」工種でも、出来高と並べると超過のペースが分かります。
原価会議: 30分で回す議事の型
月次の数字は、会議で使われて初めて意味を持ちます。工事ごとに次の3点だけを確認する30分の会議を毎月固定で置きます。
- 着地見込みは先月から動いたか: 動いた工事だけ、理由と対策を担当者が説明します。動いていない工事は飛ばします
- 未請求・未精算の増減はないか: 追加変更工事の請求漏れは、この場で拾います。「追加でやった作業で、まだ金額の合意が済んでいないもの」を毎月尋ねる習慣が、請求漏れの最大の防波堤です
- 資金繰りへの影響: 入金予定(出来高請求)と大口支払いの時期を確認します。利益が出ていても、入金より支払いが先行すれば資金は詰まります(建築工事の資金繰り)
会議の狙いは犯人探しではなく早期発見です。悪い数字を早く出した担当者が評価される運営にしないと、数字は隠されるようになります。
モデルケース: 着地見込みが3か月目に動いた工事
設定上のモデルケースです(実在の工事の実績ではありません)。事務所ビル新築工事の着工3か月目、鉄骨工種の着地見込みが予算を上回る更新がされたとします。理由は「鋼材市況の上昇で、未発注だった付帯鉄骨の見積が予算超過」。鉄骨本体は発注済みで価格固定、付帯分だけが未発注です。
打てる手は、付帯鉄骨の仕様見直し(VE)、他工種の予算での吸収、発注時期の前倒しによる価格確定の3つです。月次管理がなければ、超過は発注の段階で「仕方なく」確定し、吸収策を打つ時間は残りません。着地見込みの更新とは、「まだ打ち手のあるうちの警報」を鳴らす仕組みです。
月次の数字と決算の関係: 工事進行基準・収益認識基準
月次原価管理は社内の管理のための数字で、決算で売上(完成工事高)をいつ計上するかとは別の話です。ただし両者はつながっています。
- 工事完成基準: 工事が完成し引渡しを終えた時点で計上する方法です
- 収益認識に関する会計基準: 企業会計基準第29号は、2021年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されており、これに伴い企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」は廃止されました。この基準を適用する会社では、一定の期間にわたり充足される履行義務について、進捗度に応じて収益を計上します
- 法人税法の長期大規模工事: 着手の日から引渡しの期日までが1年以上、請負の対価が10億円以上、対価の2分の1以上が引渡しの期日から1年を経過する日後に支払われる定めがない工事は、工事進行基準の方法で収益と費用を計上します(法人税法第64条第1項、同法施行令第129条)。長期大規模工事以外の工事でも、確定した決算で工事進行基準の方法により経理したときは、その方法によることができる場合があります(同条第2項)
どの方法を使うかは顧問税理士・会計士と確認してください。進捗に応じて計上する方法では、毎月の出来高評価と着地見込みが決算の数字の土台になります。決算書側の読み方は建設業の決算書の読み方をご覧ください。
月次の数字は見積と経営に返す
工事完了時に、工種別の予算と最終原価の差異一覧を見積担当に共有し、次の見積の単価・歩掛に反映します。「防水は毎回予算を超える」といった自社の癖は、月次データの蓄積からしか見えてきません。
経営者向けには、工事名・請負額・出来高・着地見込み・予算差・先月からの変動の6列を並べた全工事の一覧を1枚作ります。会社全体の完成工事利益の見通しが毎月つかめ、変動のあった行だけ担当者に聞けば済みます。銀行への説明の材料にもなります。
つまずきやすいポイント
- 集計が締め日に間に合わない: 請求書の回収と振り分けが月末に集中するのが原因です。請求期日の周知と都度入力で平準化します
- 小さな工事を対象外にする: 金額の小さい改修工事ほど、原価がどんぶりになりがちです。簡易版(工種5行)でよいので全工事を対象にします
- 予算のない工事が混ざる: 予算未編成の工事は比べようがありません。「予算がなければ着工しない」を原則にします
- 費目の振り分けが人によって違う: 手間請けを労務費・外注費のどちらにするかを、早見表の区分で社内ルールにしておきます
手作業がつらくなったら仕組み化する
Excelでの月次管理は、並行する工事が増えるほど集計の負担が重くなります。工事別の原価入力と予算対比をクラウドで一元化すれば、締めの集計作業の多くを自動化できます。案件管理と原価入力を一体で扱う仕組みはツナギーの紹介記事、日々の記録の受け皿は工事台帳のつけ方で解説しています。ツールを入れても、出来高とセットで見る・着地見込みを更新する・差異の理由を残す、の月次ルーチンは変わりません。判断は人の仕事です。
よくある質問
Q. 月次原価管理では何を見ればよいですか。 A. 工事ごとに、発生原価(累計)・出来高・完成時の着地見込みの3つです。発生原価だけでは判断できないため、必ず出来高とセットで見て、着地見込みと実行予算の差を毎月確認します。
Q. 原価の費目はどう分ければよいですか。 A. 完成工事原価報告書の材料費・労務費・外注費・経費の4区分に合わせると、月次の数字と決算がつながります。そのうえで工種区分を実行予算の行と同じにします。
まとめ
月次原価管理は、「発生原価と出来高をセットで見る」「着地見込みを毎月更新する」「差異の理由を一言残す」「30分の会議で使う」の4点で回ります。費目は完成工事原価報告書の4区分にそろえておくと、決算ともつながります。完璧な精度より、毎月続く軽さを優先してください。
出典・参考
- 国土交通省告示「建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類」(昭和57年建設省告示第1660号。完成工事原価報告書の科目、未成工事支出金、完成工事高の定義): https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/sgml/1982/26220000/26220000.html
- 企業会計基準委員会「企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準」(適用時期、工事契約に関する会計基準の廃止): https://www.asb-j.jp/jp/accounting_standards_system/details.html?topics_id=13
- 国税庁 仙台国税局 文書回答事例 別紙(長期大規模工事の要件。法人税法第64条、同法施行令第129条): https://www.nta.go.jp/about/organization/sendai/bunshokaito/hojin/101118/besshi.htm
- 国税庁 法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)収益及び費用の帰属時期の特例(法人税法第64条第2項の工事進行基準): https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/080702/04.htm
※ 2026年10月1日:冒頭で月次原価管理の意味とやり方を言い切る構成に見直し、完成工事原価報告書の4区分に合わせた費目の早見表、着地見込みの計算例、工事進行基準・収益認識基準との関係、よくある質問・出典を追加し、事例をモデルケースと明示しました。
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