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実行予算の作り方を全工事に定着させる|建設会社のモデルケース

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実行予算の作り方を全工事に定着させる|建設会社のモデルケース

この記事について  本記事は、建設会社で起こり得る課題と改善手順を具体的に説明するためのモデルケースです。特定の実在企業やKMC株式会社の導入実績を示すものではなく、数値も改善効果を保証するものではありません。

実行予算の作り方は、①材料を揃える ②工種に分解する ③数量と単価を当てる ④現場経費を積む ⑤予備費と利益を決める ⑥承認を取り発注基準に落とす、の6手順です。実行予算(受注後に、工事ごとの目標原価と目標利益を工種別に決めた社内予算のこと)は、この手順を着工前に終えることで、現場の発注判断の基準になります。

多くの建設会社でつまずくのは、手順そのものより「全工事で手順を回し切れない」ことです。この記事では、予算編成が工事部長1人に依存していた建築の建設会社を想定したモデルケースで、編成を全工事に定着させる取り組みを紹介します。

実行予算の作り方: 6つの手順の早見表

各手順の詳しいやり方は実行予算書の作り方で解説しています。ここでは要点と、編成が止まりやすい箇所をまとめます。

手順やること止まりやすい箇所
① 材料を揃える契約図面・仕様書、見積時の内訳書と拾い資料、請負契約書、類似工事の予算と最終原価を集める見積時の図面と契約図面の差分を確認しないまま進む
② 工種に分解する請負金額の内訳を、協力会社への注文書の単位で分解する積算の分類のまま分解し、発注単位と合わない
③ 数量と単価を当てる協力会社見積、直近の発注実績、単価資料の順で根拠を当てる数量拾いに時間がかかり、編成全体が遅れる
④ 現場経費を積む現場管理者の人件費、仮設事務所、廃棄物処理、警備などを積む期間に比例する費目を率で一括計上してずれる
⑤ 予備費と利益を決める予備費の枠と目標利益を決め、未達なら対策を明文化する予備費をゼロにして最初のトラブルで破綻する
⑥ 承認を取り発注基準に落とす経営者または工事部長が承認し、工種ごとの予算を発注上限にする承認者の時間が取れず、着工に間に合わない

このモデルケースの会社で詰まっていたのは、③の数量拾いと⑥の承認が、どちらも工事部長1人に集中していた点でした。

企業概要(モデルケースの設定)

項目内容
社名H建設株式会社(架空)
所在地関東地方
従業員数28名
主な事業事務所・倉庫・共同住宅の建築一式工事、テナント改修
年間売上約12億円
年間の受注工事約25件

導入前の課題: 予算を「組める工事」と「組めない工事」があった

H建設では、実行予算の編成は工事部長の仕事でした。部長は積算経験が豊富で、部長が予算を組んだ工事は利益のブレも小さい。問題は、部長の時間が足りないことでした。

  • 年間25件の受注に対し、実行予算を組んで着工できたのは10件前後(編成率約40%)という設定
  • 予算のない工事は、見積金額から「たぶんこれくらい」の感覚で発注が進む
  • 決算時に工事別の利益率を並べると、予算のある工事とない工事で差が出ていた
  • 部長が現場対応に追われる繁忙期ほど、予算が組まれないまま着工する工事が増える悪循環

経営者が把握していた「なんとなくの症状」を工事別の利益率で並べたところ、予算のない工事の利益率が低い傾向が見えました。この集計が、改善を始める社内合意の決め手になりました。

改善の方針: 部長を増やすのではなく、編成を軽くする

最初に検討されたのは積算担当の採用でしたが、早期の確保は難しいと判断。方針を「部長にしかできない仕事を減らし、編成の作業自体を軽くする」に切り替えました。取り組みは4つです。

取り組み1: 予算様式を2種類に分ける(手順②④の軽量化)

それまで全工事で同じ詳細様式を使っていたのをやめ、金額と難易度で「詳細版」と「簡易版(A4一枚)」に分けました。改修や小規模工事は簡易版でよい、と決めたことで、「時間がないから予算なし」の言い訳が消えました。

取り組み2: 数量拾いに図面解析型の積算AIを導入(手順③の軽量化)

編成時間の大半を占めていた数量拾いに、図面から数量を拾い出すAIツールを導入。過去に部長が人手で拾った完成物件で精度を検証してから、新規物件に適用しました。AIの下書きを部長が検証する分担にしたことで、拾いにかかる時間が大きく縮みました。

取り組み3: 「予算がなければ着工しない」を社内ルール化(手順⑥の固定)

経営者が「実行予算の承認を着工の条件とする」と宣言し、例外を認めない運用にしました。着工日から逆算して予算編成が段取りされるようになり、着工後に予算を作る「後追い予算」がなくなりました。

取り組み4: 若手2名を「検証者」として育成

部長の拾いのノウハウを、AIの下書きを検証する作業を通じて若手2名に移転しました。ゼロから拾いを教えるより、「下書きのどこを疑うか」から教える方が習得が速かった、というのが部長の実感です。

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導入前の検証: 完成物件での「模擬テスト」

AI導入にあたり、H建設はいきなり新規物件で使わず、直近に竣工した倉庫と事務所の2物件で模擬テストを行いました。過去に部長が人手で拾った数量と、同じ図面をAIに読ませた数量を、工種別に突き合わせる方法です。

結果には濃淡がありました。躯体(コンクリート・型枠・鉄筋)と外壁・屋根の面もの、内装の仕上げ面積はよく一致。一方、雑工事や外構の一部、特殊な納まり部分は下書きの信頼度が低く、人の拾いが必要と分かりました。

この検証で得たのは精度の比較だけではありません。「どの工種は任せてよく、どの工種は人が拾うか」という社内の線引きが、感覚ではなく突き合わせの結果で決まったこと。そして、懐疑的だったベテラン社員に、実際の差異表を示して説明できたことです。

編成率100%が変えた経営会議

予算が全工事に揃ったことで、月次の経営会議が変わりました。以前は「今月の売上と入金」の確認が中心だったのが、工事別の着地見込み一覧を見ながら「どの工事が予算から動いたか」を話す会議になったのです。

とくに効果が大きかったのは、受注判断へのフィードバックです。完成工事の予算差異データがたまると、「この用途・この規模の工事は利益が残りにくい」という傾向が見えるようになり、見積段階の利益設定と、相見積への参加判断に反映されるようになりました。実行予算の整備は現場管理の話に見えて、実際には受注戦略の土台だった、というのがこのモデルケースの結論です。

導入1年後の変化(モデルケースの設定値)

以下はモデルケースとして設定した数値で、実在企業の実績ではありません。

指標導入前導入1年後
実行予算の編成率約40%100%
予算編成の所要時間(1件平均)2〜3日半日〜1日
編成に関われる人数1名3名
工事別利益率の把握時期決算時月次

編成率100%の副産物として、月次の原価管理が全工事で機能し始めます。予算というものさしが全工事に揃うことで、着地見込みも比べられるようになります。

工事部長の視点

モデルケースの工事部長の立場で、変化を整理するとこうなります。最初はAIの拾いを信用していなかったが、完成物件で数字を突き合わせ、使える工種と注意が要る工種が分かってからは、拾いを任せて査定と交渉に時間を使えるようになった。そして一番の変化は、若手に「検証」という形で積算を教えられるようになったことです。

苦労した点

  • 簡易版様式で「どこまで省いてよいか」の線引きに議論があった(工種の粒度は落としても、予備費と利益の行は必ず残すことで決着)
  • AI導入の初月は、図面データの受領形式が整わず読み取りが安定しなかった。設計事務所への依頼方法を統一してから改善した

今後の課題と展望

次の課題は3つです。第一に、改修工事への展開。解体してみないと分からない不確実性が大きい改修では、予備費の決め方を新築とは別に設計する必要があります。第二に、蓄積した予算・原価データの見積への活用。工種別の実績単価を見積から参照できる形に整え、見積と予算の往復を速くします。第三に、検証者に育った若手を、査定・交渉の担い手に引き上げること。「拾える人」から「決められる人」への育成です。

【自社点検チェックリスト】実行予算の作り方が全工事に回っているか

モデルケースの取り組みを、自社で点検できる形にしました。「いいえ」が多い項目から手を付けます。

  • 過去1年の受注工事のうち、着工前に実行予算が承認された件数を数えたことがあるか
  • 予算の行が、協力会社への注文書の単位と対応しているか
  • 小規模工事・改修工事向けの簡易様式があるか
  • 数量拾いを1人に依存せず、下書きと検証を分担できているか
  • 単価の根拠が弱い行に印を付け、発注時に検証しているか
  • 期間に比例する現場経費を「月額×工期」で積んでいるか
  • 予備費と利益の行が、簡易様式にも必ず残っているか
  • 「予算の承認がなければ着工しない」が社内ルールになっているか
  • 完成工事の予算と最終原価の差異を、次の見積に戻しているか

これから取り組む会社への3つのアドバイス

  1. 編成率を測ることから始める: 「うちは予算を組んでいる」という会社でも、全受注に対する編成率を数えると想定より低いことがあります。現状の数字を出すだけで、課題の大きさが共有できます
  2. 様式を軽くする決断を先にする: ツール導入より先に、簡易版様式を許容する意思決定が効きます。完璧な予算を一部の工事で組むより、粗くても全工事で組む方が、会社全体の利益は守れます
  3. AIは「部長の代わり」ではなく「部長の時間を作る道具」: 拾いをAIに任せても、単価と利益の判断はベテランの仕事です。判断できる人が残っているうちに、判断以外の作業を引き剥がすこと。それが技能承継の実質です

よくある質問

Q. 実行予算の作り方の手順を教えてください。 A. ①材料を揃える ②工種に分解する ③数量と単価を当てる ④現場経費を積む ⑤予備費と利益を決める ⑥承認を取り発注基準に落とす、の6手順です。詳しくは実行予算書の作り方で解説しています。

Q. 実行予算と見積書は何が違いますか。 A. 見積書は発注者に出す請負金額の根拠、実行予算は受注後に自社が工事ごとの目標原価と目標利益を決める社内の予算です。違いは実行予算書とはで整理しています。

Q. 小さな工事でも実行予算は必要ですか。 A. 必要です。ただし詳細な様式である必要はありません。このモデルケースのように、工種の粒度を落とした簡易様式でも、予備費と利益の行を残しておけば発注判断の基準として機能します。

まとめ

実行予算の作り方は6つの手順で、難しいのは手順そのものより全工事で回し切ることです。このモデルケースのポイントは、人を増やさず「編成を軽くする・検証に切り替える・ルールで担保する」の3点で全工事の編成を実現したことです。実行予算の組み方の基本は実行予算書の作り方で、AIを組み込む手順は実行予算の作成をAIで効率化する手順で解説しています。

※ 2026年9月30日:冒頭に実行予算の作り方(6手順)の要約と早見表を追加し、モデルケースの数値が設定値であることを明記したうえで、自社点検チェックリストとよくある質問を追加しました。

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