竣工前の是正指摘を半減させた工区検査の前倒し|Y建設株式会社様
企業概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | Y建設株式会社 |
| 所在地 | 東北地方 |
| 従業員数 | 42名 |
| 主な事業 | 共同住宅・福祉施設・事務所の建築一式工事 |
| 年間売上 | 約22億円 |
導入前: 竣工2週間前が毎回「戦場」だった
Y建設では、社内検査は竣工の2〜3週間前に全館一斉で行う方式でした。共同住宅40戸の物件で社内検査の指摘が800件超、続く施主検査でさらに200件超。撤収済みの職種を呼び戻す調整、直したそばから付く新しい傷、消し込みの漏れ。竣工直前の2週間は、工事部全員が是正対応に張り付く「戦場」になっていました。
決定的だったのは、ある物件の引渡し日に是正が完了せず、発注者に「残工事一覧」を渡して謝罪しながら引き渡した経験です。工事内容への評価は高かっただけに、最後の印象で信頼を落としたことが社内で重く受け止められました。
転換の発想: 指摘の数ではなく「時期」を変える
検討の当初は「検査を厳しくして指摘を減らす」方向の議論でしたが、過去物件の指摘データを分析すると、別の事実が見えました。指摘の大半は、クロス・塗装・建具調整といった仕上げ末期の軽微な不具合で、内容自体は例年ほぼ同じ。つまり指摘は「なくせない」が、「早く出して早く直す」ことはできる。問題は総量ではなくタイミングだ、という結論になりました。
そこで採用したのが、フロア単位の工区検査方式です。
取り組みの内容
(1) 「職種の撤収前」に検査を置く
仕上げ工事が完了したフロアから順に社内検査を行い、そのフロアの是正まで完了させて閉じていく方式に変えました。検査のタイミングは「主要職種がそのフロアから撤収する前」。手直しを「いるうちに」頼めるため、呼び戻しの調整が消えました。
(2) 最初の1部屋を「基準住戸」として先行検査
各物件で最初に仕上がる1部屋を先行して検査し、そこで出た指摘(納まり・色ムラ・精度の基準)を全職種の職長と共有してから、残りの部屋を仕上げる運用にしました。同じ原因の指摘が全戸で繰り返されるのを、最初の1部屋で止める狙いです。
(3) 指摘の書式を統一し、写真で管理
指摘は「場所・内容・要求水準・期限」を必須項目とし、現地にマスキングテープで印を付けて写真とセットで記録する方式に統一。是正後の写真と対で消し込む運用を、写真管理アプリ上で回しました。消し込み責任者は各物件で1名を指名しています。
(4) 職種間の傷つけ事案の精算ルールを事前合意
従来、竣工前に紛糾していた「誰が付けた傷か」問題には、工程の受け渡し時に受け取る側が前工程の状態を確認する引き渡し検査方式を導入。以降の傷は受け取った側の管理範囲という線引きを、着工時の職長会で合意する形にしました。
効果(導入後2物件の平均)
| 指標 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 施主検査の指摘件数 | 200件超 | 約90件 |
| 竣工前2週間の是正対応 | 工事部総出 | 通常体制で対応 |
| 引渡し日の未是正持ち越し | 発生あり | ゼロ |
| 撤収後の職種呼び戻し | 物件ごとに多数 | ほぼゼロ |
社内検査の指摘総数自体は大きく減っていません。変わったのは処理の分散です。指摘が工期の後半2か月に分散して処理されるため、竣工直前の渋滞が消えました。施主検査の指摘半減は、社内で先に拾い切れるようになった結果です。
指摘データを分析して分かったこと
工区検査への切り替えにあたり、Y建設は過去3物件の指摘一覧を集計しています。この分析自体が多くの発見をもたらしました。
- 指摘の内訳は、クロス・塗装の仕上がり系が約4割、建具の調整系が約2割、傷・汚れなどの損傷系が約2割、その他が2割
- 損傷系の指摘の大半は、仕上げ完了後に入った後工程(設備の器具付け・美装・ダメ直し自体)による二次被害だった
- 同じ内容の指摘が全戸で繰り返されるパターン(巾木の納まり、扉の開閉調整)が明確に存在した
この結果が、基準住戸方式(繰り返し指摘を最初の1部屋で潰す)と、完成エリアの養生・立入制限の強化(損傷系を減らす)という対策の根拠になりました。「検査を厳しく」という精神論ではなく、データが対策を教えてくれた、と品質担当の課長は振り返ります。集計に使ったのは指摘一覧の表計算だけで、特別な分析ツールは使っていません。
発注者の反応: 竣工の風景が営業になった
導入後の物件では、施主検査の場の空気が変わりました。指摘が少ないだけでなく、社内検査の記録(フロアごとの検査日・指摘・是正完了の一覧)を提示して検査に臨むため、発注者側の担当者から「自分たちでここまで確認している会社なら安心だ」という言葉が出るようになりました。
福祉施設の物件では、発注者の理事長が引渡し式で「前に建てた施設のときは最後がバタバタだったが、今回は気持ちよく引き渡しを受けられた」と挨拶で触れる場面もありました。竣工の印象は、次の計画や紹介の際に真っ先に思い出される記憶です。品質管理の改善が、結果として最も確実な営業活動になっている。経営陣はこの効果を、導入コスト(ほぼゼロ)に対する最大のリターンと評価しています。
想定外の効果: 若手の検査眼が育った
工区検査方式には、教育面の副産物がありました。従来の全館一斉検査はベテラン数名で駆け抜けるため、若手は是正の追い回し役でしかありませんでした。フロア単位の検査は回数が多いぶん、若手を検査者として同行させる機会が増え、「先輩がどこを見るか」を現場で学べるようになったのです。
2年目の社員が基準住戸の検査で建具の調整不良を指摘し、職長に感心された、という小さな出来事が社内で共有されています。検査の分散は、検査眼の伝承の分散でもありました。
苦労した点
- 工区ごとの「仕上げ完了」の定義が曖昧で、初回は検査に入ったフロアでまだ作業が残っている場面があった。工程表に「検査可能日」を職長合意で明記することで解消した
- 基準住戸の先行仕上げは、工程上の先行手配(材料・職人)が必要で、初回は段取りが後手に回った。2物件目からは着工時の工程会議で基準住戸を最初に決めている
- 検査回数が増えたことで、検査者の負担の平準化が課題になった。現在は若手を含む検査当番制で回し、負荷の偏りを防いでいる
横展開: 改修工事と定期アフターへの応用
工区検査の考え方は、現在2つの領域へ展開されています。ひとつは改修工事です。居ながら改修では「終わったエリアから順次引き渡す」ことが多く、工区検査方式との相性がもともと良い。テナントごとの検査・是正・引き渡しをセットにする運用が定着しつつあります。
もうひとつは引渡し後のアフター点検です。竣工時の検査記録と写真がエリア別に整理されているため、1年点検の際に「どこをどう直したか」を参照しながら確認でき、点検の質と速度が上がりました。検査記録は竣工で役目を終える書類ではなく、建物と付き合い続けるための台帳になる。工区検査の導入は、結果として引渡し後のサービス品質まで変えています。
まとめ
Y建設の事例の要点は、指摘を減らす努力より先に、指摘を早く出して早く閉じる構造に変えたことです。工区検査・基準住戸・精算ルールの考え方は社内検査と是正管理の回し方で、竣工期全体の運営は竣工検査から引渡しまでの流れで詳しく解説しています。
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