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開口部の養生外れをゼロに|ヒヤリハットから生まれた養生台帳の仕組み|D建設工業株式会社様

開口部の養生外れをゼロに|ヒヤリハットから生まれた養生台帳の仕組み|D建設工業株式会社様

企業概要

項目内容
社名D建設工業株式会社
所在地九州地方
従業員数35名
主な事業建築一式工事(共同住宅・事務所)、大規模改修
年間売上約18億円

きっかけ: 「何も起きなかった」ヒヤリハット

きっかけは、共同住宅の躯体工事中に起きたヒヤリハットでした。エレベーターシャフトの開口養生が、前日の設備作業の後に半分外れたままになっており、翌朝、資材を運んでいた作業員が開口の縁で足を止めた。落ちてはいない。怪我もない。しかし、一歩ずれていれば3階分の墜落でした。

現場調査で分かったのは、「養生を外した業者は戻したつもりだった」「戻っていないことに誰も気づかなかった」という、責任者不在の構図です。類似のヒヤリハットが過去にも2件あったことも、この調査で初めて表に出ました。誰かが悪いのではなく、外れたことを検知する仕組みがない。経営者はこれを「運が良かっただけの重大災害」と位置づけ、全社的な対策に着手しました。

取り組みの内容

(1) 図面から開口を拾い出し、台帳にする

まず、着工前に構造図・意匠図から開口部・スラブ端部をすべて拾い出し、階別の「開口台帳」を作る手順を標準化しました。台帳には開口ごとに番号・位置・寸法・養生方法・設置予定時期を記載します。「現場で見つけたら養生する」方式を、「図面で全部決めてから工事を始める」方式に変えたわけです。

(2) 覆いに番号を書く

台帳の番号を、養生の覆いにも大きく書きました。単純な工夫ですが効果は大きく、巡回時に「どこの覆いが外れているか」が一目で特定でき、職長への復旧指示が「3階の12番、今日中に戻してください」と具体的になりました。番号のない覆いは「勝手に作られた養生」として、その場で台帳に追加します。

(3) 「外した者が戻す」を職長会で合意

開口を開けた業者・覆いを外した業者がその場で復旧する原則を、職長会で文書合意しました。あわせて、揚重や設備作業で一時的に外す場合は、朝の打ち合わせで「今日どの番号を外すか」を申告する運用にしました。外れる予定が事前に共有されるため、巡回でも重点的に見られます。

(4) 夕方15分の養生巡回

毎日の夕方、施工管理者が台帳を持って15分の養生巡回を行い、外れ・ずれを台帳にチェックします。夕方に設定したのは、事故の典型パターンが「作業後の戻し忘れが翌朝の作業者を襲う」だからです。その日の外れをその日のうちに戻せば、翌朝は安全な状態から始まります。

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台帳の中身: A3一枚と平面図のセット

開口台帳は、凝ったシステムではなくExcelのA3一枚です。列は、番号、階、位置(通り芯)、開口の種類(EVシャフト・設備開口・段差部など)、寸法、養生方法(覆い・手すり・立入禁止)、設置予定日、解除条件(手すり壁完成・EV据付開始など)、直近の点検日と状態。これに、開口位置へ番号を振った各階平面図を添えます。

工夫したのは「解除条件」の列です。養生はいつか外すものであり、外してよくなる条件(本設の手すりができた、EV業者に引き渡した)をあらかじめ書いておくことで、「もう外していいのか」を現場で迷わなくなりました。養生の張りっぱなしによる作業性の低下も、逆に早すぎる解除も、この列が防いでいます。

台帳の更新は夕方巡回とセットで、担当の施工管理者が行います。1現場あたりの初期作成は半日、日々の更新は巡回15分に含まれる程度で、専任の人員は置いていません。

導入のコストと手間の実際

「仕組み」と聞くと大掛かりに聞こえますが、掛かった費用は養生材の充実分だけでした。番号表示は油性ペンとラミネートした表示札、台帳はExcel。特別なツールは使っていません。

手間の面では、初期の開口拾い出し(図面から台帳を作る半日)が追加になりましたが、これは従来「現場で開口を見つけてから場当たりで対応していた時間」の前倒しに過ぎない、というのが担当者の評価です。むしろ養生材の数量が着工前に確定するため、手配のドタバタと不足が消え、トータルの手間は減ったといいます。安全対策のコストを実行予算の共通仮設費に1行で計上する運用も、この数量根拠があって初めて可能になりました。

効果(導入から1年)

指標導入前導入後
養生外れに関するヒヤリハット報告年3件0件
店社・発注者パトロールでの養生関連指摘巡回のたびに数件ほぼゼロ
夕方巡回の所要時間(実施なし)1日15分程度
養生費の予算計上現場任せ(予算行なし)共通仮設費に数量根拠つきで計上

数字にならない変化もありました。番号養生が現場の「見える化」として機能し、職人側から「7番の覆いが浮いている」と報告が上がるようになったことです。安全管理が元請の巡回だけに頼らない状態になりつつあります。

協力会社の反応

導入時、協力会社からは「申告が面倒」という声も出ました。転機になったのは、ヒヤリハットの内容を職長会で共有したことです。「自分の後工程の誰かが落ちるかもしれなかった」という具体的な話は、抽象的な安全講話より説得力がありました。半年後には、他現場から来た職長が「この現場の養生は分かりやすい」と口にするようになり、ルールは文化として定着しました。

安全成績は営業成績になった

この取り組みには、当初想定していなかった対外的な効果がありました。発注者やその設計監理者が行う現場視察・パトロールで、番号養生と台帳がほぼ毎回話題になるのです。「管理の見える化ができている元請」という評価は、次の指名や紹介の場面でD建設工業の名前が挙がる理由のひとつになっています。

大手ゼネコンの下請に入る工事でも、元請の安全担当から台帳の様式を尋ねられ、そのまま採用された例がありました。安全管理は費用や手間として語られがちですが、きちんと仕組み化された安全は、会社の信用として外から見えるものになる。経営者はこの1年で、その手応えを得たと話します。

横展開と今後

現在は全新築現場でこの仕組みを標準化し、改修現場向けには「既存建物の開口・段差の事前調査」を加えた改修版台帳を整備中です。また、養生材の数量を台帳から拾って実行予算に計上する運用が定着したことで、「養生費がないから薄い覆いで済ませる」という構造的な問題も解消されました。

D建設工業からの3つのアドバイス

同じ課題を持つ会社に向けて、担当した工事部長は次の3点を挙げます。

  1. ヒヤリハットを「仕組みの設計図」として扱う: 何も起きなかった事象こそ、コストゼロで手に入る事故の予告です。報告を集める仕組みより先に、報告が仕組みに変わった実例を1つ作ると、報告は自然に増えます
  2. 番号は魔法ではない: 効いているのは番号そのものではなく、「外した者が戻す」「外す予定を朝に申告する」という職長会の合意です。道具だけ真似ても、合意がなければ形骸化します
  3. 巡回は夕方に置く: 朝の巡回は「昨日の外れ」に気づくのが一晩遅い。夕方15分の巡回が、翌朝の作業員を守ります

まとめ

D建設工業の事例が示すのは、墜落防止の決め手が高価な設備ではなく、図面からの拾い出し・番号・夕方巡回という運用の仕組みだということです。ヒヤリハットを「何もなかった日」にせず、仕組みに変換したことがすべての出発点でした。開口部養生の実務は開口部・スラブ端部の墜落防止で詳しく解説しています。

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