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決算まで利益が見えない会社が、月次原価で赤字案件を早期発見できるまで|S工務店様

決算まで利益が見えない会社が、月次原価で赤字案件を早期発見できるまで|S工務店様

企業概要

項目内容
社名S工務店
所在地関西地方
従業員数21名
主な事業店舗・事務所の新築、テナント内装工事
年間売上約8億円
並行する工事常時8〜12件

導入前: 「今期は儲かっていますか」に誰も答えられない

S工務店の経営者が危機感を持ったのは、税理士との決算打ち合わせの席でした。前期は増収だったにもかかわらず、利益は前々期を下回った。どの工事で利益が削られたのかを尋ねると、正確に答えられる者が社内にいなかったのです。

当時の状況はこうでした。

  • 協力会社の請求書は経理がまとめて処理し、工事別の集計は決算時のみ
  • 実行予算は主要工事だけ作成。予算と実際の比較は誰もしていない
  • 工事担当者は「自分の現場が儲かっているか」を聞かれても感覚でしか答えられない
  • 追加工事の請求漏れが決算の分析で複数発覚したが、時効のように曖昧になっていた

「うちは工事はできるが、商売の数字はどんぶりだ」。経営者のこの言葉が、月次原価管理プロジェクトの出発点になりました。

取り組み: 大きな仕組みではなく「月イチの習慣」から

S工務店が最初にやったのは、システム導入ではなく運用の設計でした。

(1) 全工事に簡易予算を義務化

まず、どんな小さな工事でも工種10行程度の簡易実行予算を作ってから着工する、というルールを定めました。予算がなければ比較のしようがない、という当たり前の前提を先に整えた形です。

(2) 月末締めの「3つの数字」を各担当者が報告

毎月末、工事担当者は自分の現場について、発生原価の累計、工種別のおおまかな進捗、完成時の着地見込みの3つを報告します。精密さより「毎月必ず出す」ことを優先し、進捗は1割刻みの感覚値で可としました。

(3) 月次原価会議を30分で固定

月初の会議で、全工事の一覧表を見ながら「先月から着地見込みが動いた工事」だけを議論する形式にしました。あわせて毎回、「金額合意が済んでいない追加作業はないか」を全員に確認します。この一往復だけで、追加工事の請求漏れは目に見えて減りました。

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3か月目の壁: 集計が回らない

順調に見えた運用は、3か月目に壁に当たりました。並行工事が10件を超えた月、請求書の工事別振り分けと担当者の報告集計が締めに間に合わず、会議が「先月の数字」で行われる事態になったのです。

原因は明白で、月末に作業が集中する設計にありました。対策として、請求書は届いた都度その週のうちに工事別へ振り分ける運用に変え、担当者の報告はスマホから随時入力できるよう、案件管理クラウド(ツナギー)の原価入力に載せ替えました。集計が自動化されたことで、経理の月末負担は解消し、会議には「昨日時点の数字」が出るようになりました。

ツールはあくまで集計の道具であり、先に運用の型(3つの数字と月次会議)ができていたから載せ替えがスムーズだった、というのが担当者の振り返りです。

1年後の変化

指標導入前導入1年後
工事別利益の把握時期決算時(年1回)毎月
実行予算の作成率主要工事のみ全工事
追加工事の請求漏れ決算分析で複数発覚月次確認でほぼゼロに
赤字が見込まれる工事への対応完工後に判明、対応不能工事中に発見し対策

象徴的な出来事が、導入8か月目にありました。ある店舗改修工事で、着地見込みが2か月連続で悪化。原因を調べると、解体後に判明した下地補修の費用を、追加としてではなく自社負担で飲み続けていたことが分かりました。月次会議での指摘を機に発注者と協議し、相応の追加金額の合意に至っています。「以前なら、決算で気づいて終わりだった」と経営者は言います。

導入の体制と、実際にかかった手間

プロジェクトの体制は、推進役の専務と経理担当1名、そして工事担当者5名。外部コンサルタントは入れていません。準備に使ったのは、予算様式の設計に2週間、運用ルールの説明会が1回、それだけです。

導入後の各担当者の負担は、月末の報告が1現場あたり15〜30分。経理側は当初、請求書の工事別振り分けに月数時間を要しましたが、都度振り分けとクラウド入力への移行後はほぼ平準化されました。「原価管理は手間がかかる」という導入前の身構えに対して、実際の負担は想定の半分以下だった、というのが推進役の実感です。

負担よりも難しかったのは、報告の習慣づけでした。最初の2か月は締め日に報告が揃わず、専務が個別に催促して回っています。転機は、会議で「着地見込みの悪化を早く報告した担当者」を経営者が明確に評価したことでした。数字を出すと詰められる、ではなく、早く出すと助けてもらえる。この空気ができてからは、催促は不要になりました。

銀行との対話が変わった

もうひとつの想定外の効果は、金融機関との関係でした。決算説明の席で、工事別の予算・実績・着地見込みの一覧を示したところ、担当者から「ここまで工事別の管理ができている会社は多くない」という反応があったといいます。翌期の融資協議は、過去になくスムーズに進みました。

月次原価管理は社内の道具として始めたものですが、「自社の数字を掴んでいる経営」の証明として、外からの信用にも働く。この効果は、導入前にはまったく想定していなかったものでした。

担当者の声

工事部の主任のコメントです。「最初は報告が増えて面倒だと思っていました。変わったのは、自分の現場の数字を毎月見るうちに、発注や段取りの判断が変わったことです。この外注をこの金額で出したら着地がどう動くか、を考えるようになった。数字は経理のものではなく、現場の道具なんだと今は思います」

数字は見積にも還流し始めた

1年分の月次データが溜まると、使い道は工事管理の外に広がりました。工種別の予算差異を集計したところ、内装関係は予算内に収まる一方、金属・建具関係が高い頻度で予算を超えていることが判明。原因を調べると、見積時の単価が数年前の実績のまま更新されていなかったことが分かりました。以後、完工した工事の実績単価を四半期ごとに見積の標準単価へ反映する運用が加わり、見積段階の精度そのものが上がり始めています。

もうひとつの変化は、受注判断です。着地見込みの実績から「テナント内装の短工期案件は利益率が安定して高い」ことが見え、営業がこの領域の引き合いを意識的に増やしました。原価管理は守りの道具として始まりましたが、どの仕事を取りに行くかという攻めの判断材料になった、というのが1年運用しての結論です。

S工務店からのアドバイス

  1. 精度を求めすぎない: 1割刻みの進捗、概算の着地見込みで十分機能します。完璧な数字を求めると報告が止まります
  2. 会議は「動いた工事」だけ話す: 全件を毎月なめる会議は長くなって続きません。変化に絞れば30分で回ります
  3. 壁が来たら運用を疑う前に「月末集中」を疑う: 続かない原因の多くは意志ではなく、作業が月末に溜まる設計にあります

まとめ

S工務店の事例は、月次原価管理が大企業の仕組みではなく、20名規模の会社の「月イチの習慣」として成立することを示しています。運用の型の作り方は月次原価管理のやり方で、集計を支える仕組みはツナギーの紹介記事で解説しています。

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