揚重作業の安全対策|建築現場のクレーン・玉掛け・合図の法令と実務
公開日:最終更新日:
編集・発行:KMC株式会社
揚重作業の安全対策は、①揚重計画を事前に決める、②資格者が点検済みの用具で玉掛けする、③合図者を指名して合図を統一する、④つり荷の下に人を入れない、⑤強風時は作業を中止する、の5つが柱です。 いずれもクレーン等安全規則(以下「クレーン則」)に根拠があり、たとえば強風時の作業中止は第31条の2(移動式クレーンは第74条の3)、つり荷の下への立入禁止は第29条(移動式は第74条の2)で事業者に義務づけられています。
この記事では、建築現場の揚重(ようじゅう=クレーン等で資材をつり上げて運ぶこと)を、元請の施工管理者が毎日どう回すかに絞って解説します。なお「楊重」と書かれることもありますが、正しくは「揚重」です。
揚重の事故は「重大化する」のが特徴
建築現場の揚重は、毎日何十回も繰り返される日常作業です。同時に、ひとたび事故になると、つり荷の落下・クレーンの転倒・挟まれと、重大災害に直結しやすい作業でもあります。日常性と重大性が同居しているからこそ、「慣れ」が最大の敵になります。
【早見表】揚重作業の安全対策と根拠条文
事業者が講じる措置を、条文ごとに要約しました(原文は末尾の出典から確認できます)。
| 対策 | クレーン | 移動式クレーン | 条文の要旨 |
|---|---|---|---|
| 作業計画 | 該当なし | 第66条の2 | 作業方法・転倒防止の方法・労働者の配置と指揮の系統をあらかじめ定め、作業開始前に周知する |
| 過負荷の禁止 | 第23条 | 第69条 | 定格荷重を超える荷重をかけて使用しない |
| 地盤と据付 | 該当なし | 第70条の3〜第70条の5 | 軟弱地盤など転倒のおそれがある場所では、必要な広さと強度の鉄板等を敷かない限り作業しない。アウトリガーは原則として最大限に張り出す |
| 合図 | 第25条 | 第71条 | 一定の合図を定め、合図者を指名して合図を行わせる |
| 立入禁止 | 第29条 | 第74条・第74条の2 | つり荷の下への立入りを禁止する(下記の6つの場合)。移動式は上部旋回体と接触するおそれのある箇所も禁止 |
| 強風時の作業中止 | 第31条の2 | 第74条の3 | 強風のため危険が予想されるときは作業を中止する |
| 玉掛け用具の点検 | 第220条 | 第220条 | その日の作業開始前にワイヤロープ・フック・シャックル等の異常の有無を点検する |
元請(特定元方事業者)には、複数の協力会社が同じ場所でクレーン等を使う場合に、合図を統一的に定めて周知する義務もあります(労働安全衛生規則 第639条)。
【早見表】運転・玉掛けに必要な資格
| 業務 | つり上げ荷重 | 必要な資格・教育 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| クレーンの運転 | 5t以上 | クレーン・デリック運転士免許(床上操作式は技能講習でも可) | クレーン則第22条 |
| クレーンの運転 | 5t未満 | 特別教育 | クレーン則第21条 |
| 移動式クレーンの運転 | 5t以上 | 移動式クレーン運転士免許 | クレーン則第68条 |
| 移動式クレーンの運転 | 1t以上5t未満 | 小型移動式クレーン運転技能講習 | クレーン則第68条ただし書 |
| 移動式クレーンの運転 | 1t未満 | 特別教育 | クレーン則第67条 |
| 玉掛け | 1t以上 | 玉掛け技能講習など | 安衛法施行令第20条第16号、クレーン則第221条 |
| 玉掛け | 1t未満 | 特別教育 | クレーン則第222条 |
揚重計画: 「何を・いつ・どの機械で」を先に決める
揚重管理の土台は、日々の注意ではなく計画です。着工前の総合仮設計画で機種と配置を決めたら(総合仮設計画の立て方参照)、工事中は次の3点を運用します。
- 重量物リストの整備: 鉄骨・PC部材・設備機器・ユニット類など、重い物・大きい物の重量と搬入時期を一覧化します。定格荷重に対して余裕のない吊りは、事前に検討会を開く対象です
- 搬入・揚重の予約制: 揚重機の使用を職種ごとの早い者勝ちにせず、前日までの予約制にします。取り合いの調整がそのまま安全管理(急ぎの無理な吊りの防止)になります(運用例は揚重の予約制のモデルケース)
- 地耐力と据付の管理: 移動式クレーンのアウトリガー下の地盤・敷き鉄板、埋戻し部や地下ピット上での作業の可否を確認します。埋設物など地下の工作物が壊れるおそれのある場所も、転倒のおそれのある場所として扱われます(クレーン則第70条の3)
玉掛け: 「資格がある」と「正しく掛けている」は別
資格の確認だけで管理した気になってはいけません。現場で見るべきは実際の掛け方です。
- 吊り具の作業開始前点検が行われているか。損傷品の即時廃棄ルールが機能しているか
- 荷に合った吊り方か。重心の偏った荷、長尺物、束ね吊りの荷崩れ対策(当て物・介錯ロープ)
- 吊り角度が広がりすぎていないか。角度が開くほど吊り具への張力は増します
- 地切り(少し上げて止める)で、荷の安定と掛かりを確認してから上げているか
使ってはいけない用具の基準も条文にあります。ワイヤロープは、1よりの間で素線の10%以上が切断したもの、直径の減少が公称径の7%を超えるもの、キンクしたもの、著しい形くずれや腐食があるものが使用禁止です(第215条)。フック・シャックル等は変形やき裂があれば使えません(第217条)。搬入業者が持ち込む吊り具も点検対象です。
合図の統一: 無線とルールの整備
複数の職種が同じクレーンを使う建築現場では、合図の混乱が事故につながります。
- 合図者を明確に指名し、合図者以外の指示でオペレーターが動かないことを徹底する
- 無線を使う場合はチャンネルの割り当てと、復唱のルール(「巻き上げ」「巻き上げます」)を決める
- 死角への搬送は、中継の合図者を置く
- 「止め」の合図だけは誰が出してもよい、というルールを全員に周知する
外国人作業員が入る現場では、手合図の図解を朝礼看板に掲示し、初回入場時に実演で確認します。「伝えたつもり」の合図が最も危険です。
つり荷の下に入らない・入らせない
揚重災害の典型は、つり荷の落下・振れによる下敷きです。クレーン則第29条(移動式は第74条の2)は、ハッカーやつりクランプ1個での玉掛け、1箇所だけの玉掛け、固定されていない複数の荷のつり上げ、磁力・陰圧で吸着させるつり具の使用、動力下降以外での下降、の6つの場合に、つり荷の下への立入禁止を義務づけています。現場のルールとしては、例外を作らず「つり荷の下と旋回範囲には入らない」と単純にしておくほうが守られます。
- 荷の移動経路の下になる範囲を、その時間帯だけ立入禁止にする(カラーコーン・バリケード・監視人)
- 荷受け側は、荷が着地して安定するまで手を出さない。介錯ロープで誘導する
- 外周部への荷取りでは、荷取りステージの手すりの復旧までを揚重作業の一部として管理する
「ちょっとの間だから」と経路下で作業を続けさせない。巡回する施工管理者が毅然と止めるべき場面です。
定格に余裕のない吊りは「検討会」を挟む
定格荷重に対する余裕が小さい荷、初めて扱う形状の荷(大型ユニット・長尺PC部材)、2台吊り(相吊り)、障害物越しの吊り込みは、当日の判断に任せず事前の検討会で次を確認します。
- 荷の実重量の根拠(図面値か実測か。梱包・治具の重量を足したか)
- 吊り点と吊り具の選定、重心位置の確認方法
- クレーンの据付位置・ブーム軌跡と、その日の配置図
- 手順書(誰が合図し、どこで一時停止して確認するか)と中止基準
常駐しない搬入業者・レッカー業者には、初回入場時にA4一枚の「揚重ルール票」(合図の方式・無線チャンネル・荷取り位置・立入禁止範囲の図)を渡して説明します。
強風・悪天候の中止判断
クレーン則は「強風のため危険が予想されるときは作業を中止しなければならない」と定めており(第31条の2・第74条の3)、この「強風」は行政通達で10分間の平均風速が毎秒10m以上の風とされています(国土交通省港湾局の資料が平成4年の労働省通達基発第480号として紹介)。機械メーカーがより厳しい基準を示している場合は、そちらに従います。
- 誰が中止を決めるかを決めておく。オペレーターの「危ない」を上書きしない
- 風速計を現場に置き、平均風速と瞬間風速の両方を見る。上空の風は地上より強いことを前提にする
- 中止基準未満でも、パネル・ボードなど風を受けやすい荷は先に中止する
- 台風接近時は、ジブの固定などクレーン自体の養生を前日までに済ませる(第31条の3)。屋外のクレーンは、瞬間風速が毎秒30mを超える風の後に作業するとき、あらかじめ各部を点検する(第37条)
中止した場合の工程リカバリー(翌日の優先揚重の組み替え)をその場で決める運用にすると、中止の心理的ハードルが下がります。
朝の揚重打ち合わせと注意事項チェックリスト
以上のルールを毎日動かす場が、朝礼後の揚重打ち合わせです。その日の揚重予定(何を・何時に・どこへ)、経路下の立入禁止時間帯、合図者の割り当て、風の予報を短時間で確認します。次の項目に1つでも「いいえ」があれば、その揚重は着手しません。
- 荷の重量(梱包・治具を含む)が、その作業半径での定格荷重以内か
- 運転者・玉掛け者の資格を確認したか
- 玉掛け用具の作業開始前点検をしたか
- 合図者を指名し、合図の方式を全員に伝えたか
- 移動式クレーンの据付地盤・敷き鉄板・アウトリガーの張り出しを確認したか
- つり荷の経路下と旋回範囲の立入禁止を表示したか
- 風の予報と現場の風速を確認し、中止の判断者を決めたか
よくある質問
Q. クレーン作業は風速何mで中止しますか。 A. クレーン則第31条の2(移動式は第74条の3)が強風時の作業中止を義務づけており、「強風」は通達で10分間の平均風速が毎秒10m以上の風とされています。メーカー基準がより厳しい場合はそれに従います。
Q. 玉掛けにはどんな資格が必要ですか。 A. つり上げ荷重1t以上のクレーン等の玉掛けは玉掛け技能講習の修了などが必要で、1t未満は特別教育が必要です(クレーン則第221条・第222条)。
まとめ
揚重作業の安全対策は、計画(重量物リスト・予約制・据付)、実務ルール(玉掛けの実態確認・合図の統一・経路下の立入禁止)、環境判断(強風の中止基準と権限)、そして毎朝の打ち合わせで回します。日常作業だからこそ仕組みで守る。これが揚重管理の要諦です。パトロールでの見方は建築現場の安全パトロール着眼点もあわせてご覧ください。
出典・参考
- クレーン等安全規則(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000034
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)第639条: https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
- 労働安全衛生法施行令(e-Gov法令検索)第20条: https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000318
- 国土交通省港湾局「コンテナクレーンの逸走防止のためのモデル運用規程『参考資料』」(平成24年8月): https://www.mlit.go.jp/common/000221201.pdf
※ 2026年9月30日:クレーン等安全規則の条文に合わせて本文を見直し、安全対策と資格の早見表、注意事項チェックリスト、よくある質問、出典を追加しました。
いまの課題に近いものはどれですか?
選んだお悩みに最適なサービスのご案内ページへ移動します。
2営業日以内に担当者からご連絡します。無理な営業はいたしません。



