建築工事の工事写真の撮り方|黒板の記載事項と撮影対象・整理術
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編集・発行:KMC株式会社
建築工事の工事写真は、着工時に撮影対象と撮影時期を決め、工事名・工事種目・撮影部位・寸法や規格・撮影時期・施工状況・立会者名などのうち必要な事項を書いた黒板を、文字が読めるように対象と一緒に写し込んで撮ります(国土交通省「営繕工事写真撮影要領」)。 撮った写真は編集してはならず、電子小黒板を使う場合は改ざん検知機能を持つ機器・ソフトを使います。
この記事では、要領の決まりごとを押さえたうえで、配筋・スリーブ・天井内など隠蔽部の撮り漏れを防ぐ撮影計画から、整理・提出までの流れを建築現場の実務に沿って整理します。
工事写真は「あとで見えなくなるもの」の保険
建築工事の写真には2つの役割があります。ひとつは発注者・監理者への報告と提出。もうひとつは、隠蔽されて見えなくなる部分の施工を証明する保険です。引渡し後に「断熱は入っているのか」と問われたとき、写真がなければ答えようがありません。公共建築工事標準仕様書(以下「標仕」)も、設計図書に定められた施工の確認をしたとき、隠ぺい状態になるなど後日の目視検査が困難な部分を施工するとき、一工程の施工を完了したときなどに、施工の記録・工事写真等を整備するよう定めています(1.2.4(4))。
ところが実際の現場では、撮り漏れに竣工間際に気づく、撮った写真が探せない、整理が残業の山になる、という三重苦が定番です。原因はカメラの腕ではなく、撮影を計画していないことにあります。
営繕工事写真撮影要領の決まりごと早見表
公共建築の工事写真は「営繕工事写真撮影要領」(令和5年版。以下「要領」)に従います。民間工事でも、取り決めがない場合の基準として使えます。
| 項目 | 要領の定め | 根拠 |
|---|---|---|
| 写真の仕様 | 原則デジタル写真、カラー、有効画素数100万画素程度から300万画素程度、大きさ1,200×900ピクセル程度から2,000×1,500ピクセル程度、JPEG | 要領2 |
| 撮影対象 | 別添の撮影対象表による。表にないものは監督職員(発注者側で工事を監督する担当者)と協議して決める | 要領3(1) |
| 黒板(白板) | 必要な事項を記載し、文字が判読できるよう撮影対象とともに写し込む | 要領3(3) |
| 編集 | 工事写真の編集は禁止。小黒板情報の電子的記入は編集に当たらない | 要領4 |
| 整理 | 工事種目または分類ごとに整理し、撮影箇所が分かりにくい場合は撮影位置図等を添付してアルバムを作成 | 要領5 |
| 提出 | 原則として、原本(撮影時のJPEG)とアルバムを工事完成時に各1部 | 要領6 |
カメラは設定によって画素数の範囲を外れるため、提出が必要な現場では着工時に撮影サイズを確認しておきます。
ステップ1: 着工時に撮影計画をつくる
撮影計画は「何を・いつ・どのくらい撮るか」の一覧です。2方向から挟んで作ります。
- 提出要件から: 発注者・監理者に確認し、提出する写真の範囲・形式(写真帳・データ)・様式を着工時に確定します。公共工事なら要領の撮影対象表が出発点です。民間工事でも「これだけは出す」を自社で決めます
- 隠蔽部から: 図面を見ながら、あとで見えなくなる部分をリスト化します。これが撮影計画の背骨です
隠蔽部の撮り漏れ定番リスト
建築で「撮っておけばよかった」が多発する箇所と、要領の撮影対象表で対応する撮影対象・撮影時期の対照です。撮影計画に必ず入れてください。
| 撮り漏れやすい箇所 | 要領の撮影対象(抜粋) | 撮影時期 |
|---|---|---|
| 杭・地業 | 支持地盤の確認、杭頭の処理状況 | 確認時・施工中 |
| 根切り底 | 支持地盤の土質状況、レベル、床付け状況 | 確認時 |
| 埋戻し | 締固めの状況(段階的な埋戻しが分かるもの) | 施工中 |
| 各階の配筋 | 配筋(補強筋を含む、寸法・本数)の計測状況、配筋検査状況 | 計測時・検査中 |
| スリーブ・箱抜き・埋込み金物 | 型枠の開口部、貫通孔、埋込み金物。ルーフドレン・スリーブ等の取付け(固定)状況 | 施工中 |
| 防水の下地・立ち上がり・ドレンまわり | 各層の張付け状況(ドレン回り等の増張り、立ち上がり部、端部等) | 施工中 |
| 耐火被覆 | ロックウールの厚さの検査状況(ピン等) | 検査中 |
| 天井・壁の下地 | 部材の間隔、補強の状況(天井開口、壁出入り口開口等) | 施工中 |
| 防火区画の貫通部・防露 | 防火区画を貫通する箇所の穴埋め、天井・壁内の防露の施工状況 | 施工中 |
| 天井内・壁内の設備 | 隠ぺい配管(二重天井内等)のふ設状況(電気設備工事編・機械設備工事編) | 施工中・施工時 |
断熱材やサッシまわりの防水テープなど、設計図書で求められる隠蔽部も同じ扱いで計画に入れます。共通項は「次の工程が始まると二度と見えない」ことです。
ステップ2: 撮影を工程に連動させる
撮り漏れの構造的な対策は、「塞ぐ前の写真」を次工程の着手条件にすることです。ボード張りの着手前に天井内・壁内の写真、埋戻しの前に配管の写真、というルールを職長会で共有し、週間工程の検査ポイントとセットで運用します。配筋とスリーブの写真は配筋検査と同じタイミングで撮ると、検査記録と写真が一度にそろいます。
撮影主体も決めます。原則は元請の施工管理者が撮る、専門工事の細部(溶接部など)は当該職種が撮って提出する、という分担が現実的です。
ステップ3: 撮り方の基本
提出・証明に耐える写真の条件はシンプルです。
- 黒板は「必要な事項」を読める大きさで: 要領の記載事項(工事名、工事種目、撮影部位、寸法・規格・表示マーク、撮影時期、施工状況、立会者名・受注者名、その他)から、その写真で証明したい内容に必要な事項を選びます。部位(階・通り芯)が曖昧な写真は証明力が半減します
- 遠景と近景のセット: どこの部分か分かる引きの1枚と、寸法・状態が読める寄りの1枚を対にします
- 測定値はスケールごと写す: かぶり、ピッチ、厚さは、測定具を当てた状態で数値が読める向きで撮ります
- 同じ位置・同じアングルで時系列に: 施工前・施工中・施工後、指摘と是正後は、同じ立ち位置で撮ると比較できる記録になります
- 撮った後に加工しない: 工事写真の編集は要領で禁止されています。読めない写真は撮り直します
暗所は補助ライトで黒板と対象の両方が読める明るさを確保し、逆光や雨天では撮影後にその場で写りを確認します。「撮ったつもりが読めない写真」は、撮り漏れと同じです。
電子小黒板を使うときのルール
黒板は手書きでも電子小黒板でもよいですが、電子小黒板は入力の手間と黒板の持ち運びを減らし、撮影と同時に分類情報を持たせられる点で、建築の大量撮影に向いています。 公共建築で使う場合は、国土交通省の通知「デジタル工事写真の小黒板情報電子化について」(令和5年3月1日)に従います。
- 受注者が監督職員に申し出て承諾を得て実施し、使用機器は工事着手前に提示する
- 機器・ソフトは、黒板の記載事項を電子的に記入でき、信憑性確認(改ざん検知機能)を持つものとする。改ざん検知には「CRYPTREC暗号リスト」(政府の調達で参照する暗号の一覧)に記載された技術を使う
- 小黒板情報の電子的記入は、要領で禁じる「編集」に当たらない
- 納品時は信憑性チェックツール等で確認し、その結果を写真と併せて提出する
対応ソフトの例は、一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会(民間団体)のサイトに一覧があります。黒板を画像に合成できるアプリでも、改ざん検知機能がなければこの条件を満たしません。
ステップ4: 整理は「撮った日」に終わらせる仕組みにする
写真整理が残業になる現場の共通点は、撮影と整理が別の作業になっていることです。対策は、撮影の時点で分類を済ませる運用です。階・部位・工種のフォルダ構成を着工時に決め、撮影時にその分類で保存されるようにします。電子黒板アプリを使えば、黒板情報とフォルダ分類が撮影と同時に付くため、「事務所に戻ってからの整理」という工程自体を消せます。具体的な運用はCloudCameraの紹介記事で解説しています。
手動整理を続ける場合でも、「その日の写真はその日のうちに振り分ける」を日課にします。
撮りすぎ問題: 枚数より「探せるか」
スマホ撮影が当たり前になり、現場の写真は「撮りすぎ」の問題も抱えるようになりました。大量の写真が無分類に溜まると、必要な1枚を探せない点で、撮っていないのと実質同じです。
証明用の写真(隠蔽部・検査・測定値)は計画に基づいて撮り、分類して残す。連絡用の写真(共有・メモ)は用が済んだら消えてよいものとして扱い、証明用の保管場所に混ぜない。この2種類を分けるだけで、検索性は大きく上がります。
写真が武器になる2つの場面
写真管理の効果は平時には見えにくいものです。効いてくる典型的な場面を2つ挙げます(説明のための想定例です)。
- 漏水の原因切り分け: 防水施工時の下地・立ち上がり・ドレンまわりの写真があれば、防水層の不具合か、後付け設備の貫通部が原因かを写真で切り分けられます
- 追加工事の立証: 施主指示の変更で下地をやり直した際、変更前後の写真と日付が揃っていれば、追加費用の協議を事実に基づいて進められます
どちらも撮影計画の網に掛かっていた写真であることが条件です。保険は、事故の前に掛けるから保険なのです。
ステップ5: 提出と保管
竣工時は、提出用(発注者・監理者の要求様式)と保管用(自社の証明記録)を分けて考えます。公共建築では、要領により原本(撮影時のJPEG)とアルバムを工事完成時に提出します。保管用は撮影した全量を分類のまま保存します。保管期間は契約不適合責任の期間や自社のアフター対応を考えて長めに設定し、クラウド保管で担当者の異動やPCの入れ替えによる紛失を防ぎます。
引渡し後の問い合わせや改修の見積でも、既存部の写真がすぐ出てくることは武器になります。写真は撮って終わりではなく、探せて初めて資産です。
よくある質問
Q. 工事写真の黒板には何を書けばよいですか。 A. 営繕工事写真撮影要領では、工事名、工事種目、撮影部位、寸法・規格・表示マーク、撮影時期、施工状況、立会者名・受注者名、その他のうち、必要な事項を記載するとしています。
Q. 電子小黒板のアプリは何でも使えますか。 A. 公共建築では、黒板の記載事項を電子的に記入でき、改ざん検知機能(CRYPTREC暗号リスト記載の技術)を持つものを使い、着工前に監督職員に提示します。民間工事は発注者・監理者との取り決めに従います。
まとめ
工事写真の要諦は、着工時の撮影計画(提出要件と隠蔽部リスト)、工程と連動した撮影ルール、撮影時に分類を終える整理の仕組み、の3点です。撮り方は要領の決まりごと(黒板の記載事項、編集禁止、電子小黒板の改ざん検知)に従います。次の現場の着工時から仕組みを変えれば、竣工時の風景は確実に変わります。検査記録としての写真の位置づけは品質管理計画の立て方もあわせてご覧ください。
出典・参考
- 国土交通省大臣官房官庁営繕部「営繕工事写真撮影要領(令和5年改定)」2から6まで及び別添撮影対象表: https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001589800.pdf
- 国土交通省大臣官房官庁営繕部「デジタル工事写真の小黒板情報電子化について」(令和5年3月1日 国営建技第14号): https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001589799.pdf
- 国土交通省「営繕工事写真撮影要領」掲載ページ: https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk4_000030.html
- 国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」1.2.4: https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001888816.pdf
- 一般社団法人施工管理ソフトウェア産業協会「デジタル工事写真の小黒板情報電子化対応ソフトウェア」(民間団体の情報): https://www.jcomsia.org/kokuban/
※ 2026年10月1日:営繕工事写真撮影要領(令和5年改定)に合わせて黒板の記載事項を見直し、写真の仕様・編集禁止・提出の早見表、隠蔽部と撮影対象表の対照表、電子小黒板と改ざん検知の扱い、よくある質問、出典を追加しました。
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