ミルシートの管理|建築の鋼材品質証明書の集め方と照合・保管
公開日:最終更新日:
編集・発行:KMC株式会社
ミルシートとは、鋼材メーカーが発行する検査証明書のことで、鉄筋や鉄骨の鋼材が規格どおりの化学成分・機械的性質を持つことを示します。 建築工事でのミルシート管理は、①発注時に提出を条件にする、②納入時に現物の表示と照合する、③品目別の一覧表で保管し竣工図書に合流させる、の3点で決まります。
根拠になるのは2つです。建築基準法第37条は、建築物の基礎・主要構造部などに使う鉄筋・構造用鋼材・コンクリートなどの指定建築材料について、日本産業規格(JIS)等に適合するか、国土交通大臣の認定を受けたものであることを求めています。国土交通省の「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」(以下「標仕」)は、材料が設計図書の品質・性能を持つことの証明資料を監督職員に提出するとし、鉄骨の鋼材ではその資料を規格品証明書としています(1.4.2(2)、7.2.10(2))。標仕は令和7年版で、民間工事では特記仕様書の要求を正とします。
【早見表】品質証明が必要な主な材料と書類
| 材料 | 標仕の材料規定 | 主な証明書類(例) | 照合のキー |
|---|---|---|---|
| 鉄筋 | JIS G 3112(SD295、SD345、SD390等)または第37条の認定を受けたせん断補強筋(5.2.1) | ミルシート、JISマーク表示、認定品は認定書の写し | 種類の記号、径、溶鋼番号 |
| 鉄骨の鋼材 | JIS G 3136(SN材)、JIS G 3106(SM材)等または指定・認定を受けた鋼材(7.2.1) | 規格品証明書(7.2.10(2)) | 鋼種、板厚、溶鋼番号 |
| 高力ボルト | トルシア形は認定品、JIS形はJIS B 1186の2種(F10T)等(7.2.2) | 検査成績書、認定書の写し | 製造ロット、ねじの呼び・長さ |
| 生コン | 6章 | 配合計画書、納入書、試験記録 | 納入日、打込み部位 |
| 防水材・シーリング・ALC等 | 各章 | 試験成績書、出荷証明 | 製品名、ロット |
- JISマーク表示品は扱いが違う: 標仕は、設計図書に定めるJIS・JASの材料でマーク表示のあるものを使う場合は、証明資料の提出を要しないとしています(1.4.2(2)ただし書)。またJIS・JASのマーク表示のある材料や、規格証明書が添付された材料は、設計図書に定める品質・性能を有するものとして取り扱うことができます(1.4.4(4))
- 「規格証明書」の定義: 標仕は、設計図書に定められた規格・基準等に適合することの証明となるもので、その規格・基準等の制度によって定められた者が発行した資料と定義しています(1.1.2)
建築基準法第37条: なぜ構造材料に証明が要るのか
第37条は、建築物の基礎、主要構造部その他安全上・防火上・衛生上重要な部分に使う建築材料のうち、国土交通大臣が定めるもの(指定建築材料)について、次のどちらかであることを求めています。
- その品質が、国土交通大臣が指定するJIS(日本産業規格)またはJAS(日本農林規格)に適合するもの
- 国土交通大臣が定める品質に関する技術的基準に適合するものとして、国土交通大臣の認定を受けたもの
指定建築材料の範囲と適合すべき規格は、平成12年建設省告示第1446号で定められ、構造用鋼材及び鋳鋼、高力ボルト及びボルト、鉄筋、溶接材料、コンクリートなどが挙げられています。国土交通省の資料は趣旨を、構造計算に性能値が用いられる重要な材料の品質を安定的に確保することと説明しています。
ミルシートや認定書の写しは、構造計算の前提の材料が実際に使われたことを示す書類です。中間検査の準備と合わせて整えます。
「あの書類、届いてますか」を竣工前に言わないために
多くの現場で、品質証明書は「竣工前にまとめて催促するもの」になっています。納入から数か月後の催促は、商社・メーカーを巻き込む書類探しの旅となり、最悪「再発行できない」の回答が返ってきます。
対策は、証明書類を材料に付随して流れてくる荷物として扱い、発注、納入、照合、保管という書類の旅を最初に設計してしまうことです。
出発点: 発注時に「書類も注文する」
第一原則は、証明書類を材料と同じ注文の一部にすることです。
- 注文書・見積依頼に「品質証明書類の提出」を明記し、種類(ミルシート・試験成績書等)・提出時期(納入時)・宛先を指定します
- 協力会社経由の材料(鉄筋業者が手配する鉄筋など)は、下請への注文条件として同じ要求を流します。出してくれない原因の大半は、最初に頼んでいないことです
- 商社・メーカーには、対象工事名と照合キー(後述)を伝えておくと、書類の突き合わせが楽になります
- 商社で切断・加工されてから納入される鋼材は、元のミルシートと納入品の対応が分かる書類を合わせて求めます
品目別: 何を集めるかの地図
集めるべき書類の代表例です(特記仕様書の要求が正)。
- 鉄筋: ミルシート(規格・化学成分・機械的性質)。圧接・機械式継手があれば、その技量資格・試験記録も一族の書類です
- 鉄骨: 鋼材の規格品証明書に加え、製品検査記録・溶接検査記録、高力ボルトの検査証明。ファブ(鉄骨製作工場)から一式で受け取る段取りにします
- 生コン: 配合計画書・納入書・受入検査と圧縮強度の成績。現場発生の書類なので日々の整理が本体です
- その他の性能材料: 防水材・シーリング・耐火被覆・ALC・杭・金物類の試験成績書・出荷証明
物件の着工時に、この地図を「必要書類一覧表」(品目・書類名・提出者・時期・受領状況)として1枚作れば、旅程表の完成です。材料の品質証明をどの工種でどう扱うかは、品質計画にも書き込んでおきます。
中間地点: 納入時の「受領と照合」を儀式にする
最も事故が起きるのが納入時です。現物は現場へ、書類はどこかへ、と別れてしまう。標仕も、材料を搬入するごとに監督職員に報告し、搬入した材料は種別ごとに検査を受け、不合格の材料は直ちに工事現場外に搬出するとしています(1.4.3、1.4.4)。
- 納入時の受領ルールを決めます。書類の受け取り担当(現場事務・施工管理者)と、受け取ったら一覧表にチェックを入れる運用
- 照合のキーを確認する: ミルシートと現物を結ぶのは、鋼材なら溶鋼番号(チャージ番号)やロット、荷札・製品の表示です。書類が「この現場に納めた材料のもの」であることを、数量・規格・番号の突き合わせで確認します。束の荷札の写真を納入時の記録として撮っておくと、後日の照合が確実になります
- 規格違い・書類不足に気づく最後のチャンスです。使ってしまった後では対処の桁が変わります
【現場用】ミルシート照合チェックリスト
- 種類の記号(例: SD345、SN490B)が特記仕様書の指定と一致
- 径・板厚、数量が納入品・納品書と一致
- 溶鋼番号・ロットが荷札・表示と対応
- 発行者がメーカー等の正規の発行者。加工品は元のミルシートとの対応書類あり
- JISマーク表示は写真、認定品は認定書の写し
- 一覧表に受領日と照合者を記入
終着点: 保管は「探せる束」で
集めた書類の保管は、竣工図書の積み立て方式に合流させます。
- 品目別のフォルダ(紙・電子)に、一覧表を先頭に置いて時系列で綴る
- 電子化する場合は命名規則(品目-納入日-内容)を決め、スキャンの束にしない
- 月次で一覧表の空欄(未受領)を点検し、翌月に持ち越さない。月次の事務ルーチンに組み込めば、竣工前の催促の旅は消えます
そもそも何のための書類か: 3つの使い道
- 施工中の確認: 設計の指定規格(材質・強度)どおりの材料が入っているかの、その場の確認
- 対外的な証明: 監理者検査・各種検査での提示
- 将来への引き継ぎ: 数十年後の改修・調査・売買の際、「この建物に何が使われているか」を語れる記録。構造検査の記録とともに、建物の信用の一部です
材料の不適合が問題になるたび、問われるのは「証明書類を確認していたか」です。
担当を決める: 「みんなの仕事」は誰の仕事でもない
書類の旅が破綻する原因は、担当の不在です。分担の型を示します。
- 受領の一次窓口は現場事務(または決めた代理): 納品書類を受け取り、一覧表にチェックし、所定のトレイ・フォルダに入れるまでを担う
- 照合は施工管理者: 規格・数量・番号の突き合わせという技術判断は、週次でまとめて行う(毎日でなくてよい)
- 月次の空欄点検は台帳管理者: 月次ルーチンの一部として、未受領の催促を出す
「受ける・照合する・追いかける」に担当の名前を付ければ、書類は流れる仕組みになります(属人化対策)。
電子化: 受け取れるものは電子で、ただし取り込みのルールを
鋼材のミルシートをはじめ、品質証明書類は電子データで発行・交付されることもあります。紛失しにくく検索でき、竣工図書の電子化にも直結するため、受け取れるものは電子で受け取ります。その際の注意は2つ。改ざん防止の観点から発行元の正規データ(改変できない形式のPDF等)で受領すること、そして自社の保管体系(命名・フォルダ)に取り込むルールを決めることです。
つまずきやすいポイント
- 「一式まとめて後日」を受け入れてしまう: 納入の都度が原則。後日は来ません
- 照合せずに綴じる: 受領のチェックだけで中身を見ない運用は、「書類はあるが別ロットのもの」を見逃します。最低限、規格と数量の突き合わせを
未受領の催促は「〇月〇日納入分の△△のミルシート」と、納入日・品目・数量で特定して依頼すること。曖昧な「書類一式」の催促は、回答を遅らせるだけです。
よくある質問
Q. JISマーク表示のある鉄筋でもミルシートは必要ですか。 A. 標仕では、設計図書に定めるJISの材料でマーク表示のあるものを使う場合は、品質の証明資料の提出を要しないとしています(1.4.2(2)ただし書)。特記仕様書で提出を求められることもあるため、工事ごとに確認し、表示の写真は残します。
Q. 鉄骨の鋼材は何を証明書類にしますか。 A. 標仕では、JIS等に適合する品質であることを証明する資料は規格品証明書とし、監督職員の承諾を受ければ、その他の規格を証明できる資料に代えられるとしています(7.2.10(2))。
Q. 建築基準法第37条の指定建築材料とは何ですか。 A. 基礎・主要構造部などに使う材料のうち国土交通大臣が定めるもので、JIS・JASに適合するか大臣の認定を受けたものに限られます。対象は平成12年建設省告示第1446号で定められています。
まとめ
ミルシート・品質証明書の管理は、建築基準法第37条と標仕の材料規定を背景に、発注時に書類も注文し、納入時に照合し、月次で空欄を潰しながら竣工図書へ合流させる流通設計の仕事です。次の物件の発注書から、書類の一文を足すところから始めてください。
出典・参考
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)第37条(建築材料の品質): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- 平成12年建設省告示第1446号(建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料等を定める件。国土交通省掲載の平成29年改正時点の版): https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201706/00006705.pdf
- 国土交通省「指定建築材料に関する大臣認定制度の概要」: https://www.mlit.go.jp/common/001267361.pdf
- 国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」1.1.2 用語の定義、1.4.2 材料の品質等、1.4.3 材料の搬入、1.4.4 材料の検査等、5.2 鉄筋の材料、7.2 鉄骨の材料(7.2.1 鋼材、7.2.10 材料試験等): https://www.mlit.go.jp/gobuild/kenchiku_hyoushi.html
※ 2026年10月1日:冒頭でミルシートの意味と管理の要点を言い切る構成に見直し、公共建築工事標準仕様書の材料の品質証明(JISマーク表示品の扱い、鉄骨の規格品証明書)と建築基準法第37条の解説、品目別の早見表、照合チェックリスト、よくある質問、出典を追加しました。
いまの課題に近いものはどれですか?
選んだお悩みに最適なサービスのご案内ページへ移動します。
2営業日以内に担当者からご連絡します。無理な営業はいたしません。





