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建築工事の粗利目標の決め方|3つの会社の失敗例から学ぶ採算ラインの引き方

建築工事の粗利目標の決め方|3つの会社の失敗例から学ぶ採算ラインの引き方

「粗利は何%が正解ですか」への答え方

見積・受注の場面で必ず問われるのが、粗利(完成工事総利益)をいくら乗せるかです。「業界平均は何%か」という問いをよく受けますが、この問いの立て方自体に落とし穴があります。よその平均は、あなたの会社の固定費を払ってくれないからです。

粗利目標は、相場から借りてくるものではなく、自社の数字から計算するものです。この記事では、ありがちな3つの失敗例を先に見て、そこから正しい決め方を逆算します。実在の会社ではなく、典型例を凝縮した仮想の3社です。

失敗例1: M社「一律15%死守」の硬直

M社は「全案件、粗利15%を死守」というルールを敷きました。一見、規律ある経営です。しかし実際に起きたのは、機会の取りこぼしと隠れ赤字の共存でした。

閑散期、固定費を埋めるだけでも価値のある案件を「15%に届かない」と断る。一方で、リスクの高い改修案件も15%で受けてしまい、解体してみたら想定外で赤字化する。教訓は明快です。粗利目標は一本の線ではなく、案件の性質(リスク・工期・稼働状況)で調整される「基準線+調整ルール」であるべきだということ。新築とリスクの大きい改修で同じ率のはずがなく、繁忙期と閑散期で受注判断が同じはずもありません。

失敗例2: R社「工事ごとにどんぶり」の分散

R社は逆に、目標を決めず「案件ごとに取れるだけ乗せる」方式でした。結果は、担当者による利益率の大きなばらつきです。強気の担当者は失注が多く、弱気の担当者は薄利の受注を積み上げる。決算を締めると、会社全体では固定費をようやく賄う水準。誰も悪意はないのに、会社としての採算管理が存在しない状態でした。

教訓は、個人の相場観に任せず、会社としての下限(これを割る受注は経営判断案件)を共有すること。ばらつきの当事者たちは、自分がばらついていることに気づいていません。完工データの蓄積で担当者別・案件種別の実績を可視化して初めて、基準の議論が始まります。

失敗例3: J社「目標はあるが、値引きで消える」の空文化

J社には立派な粗利目標がありました。しかし受注が欲しい局面になると、「今回は特別」の値引きが常態化。目標は見積書の初期値でしかなく、最終防衛線として機能していませんでした。とどめは、値引き分がどの原価にも紐づかないまま現場に引き継がれ、実行予算の段階で「そもそも予算が組めない」案件が生まれることでした。

教訓は、値引きの権限と手続きをルール化すること。誰の承認で、どこまで下げられるのか。下げた場合、その工事の予算と管理体制をどう変えるのか。値引き自体は経営判断としてあり得ます。問題は、判断の記録も条件もなく目標が溶けていくことです。

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正しい決め方: 自社の数字から3ステップ

3社の教訓を踏まえ、粗利目標の組み立てを3ステップで示します。

ステップ1: 会社の「必要粗利額」を計算する

出発点は率ではなく額です。年間の固定費(本社経費・一般管理費の総額)+返済等の資金需要+目標とする経常利益。この合計が、1年間で稼がねばならない粗利の総額です。これを見込みの年間完成工事高で割れば、会社として必要な平均粗利率が出ます。この数字は、よその平均と無関係な、自社だけの物差しです。

ステップ2: 案件タイプ別の基準線に展開する

平均率をそのまま全案件に適用すると、M社の失敗になります。過去実績(完工後の解剖データ)から、案件タイプ別の原価ブレ幅を見て、基準線を書き分けます。リスクの大きいタイプ(改修・短工期・新規顧客)は平均より高く、安定タイプ(リピート顧客の標準的な新築)は平均近くで。全体の受注構成で平均が確保できるように設計します。

ステップ3: 下限と手続きを決めて「制度」にする

基準線と別に、下限(これを下回る受注は経営会議の承認案件)を明文化します。下限の根拠は、その案件が固定費回収に貢献するか、戦略的価値(新規分野・重要顧客)があるか。R社・J社の失敗を防ぐのは、この手続きの存在です。値引きの記録は受注判断のデータとして残し、年に一度、基準線ごと見直します。

粗利率を動かす3つのレバー

目標を決めたら、次は達成の手段です。粗利率を動かすレバーは3つしかありません。

粗利の議論が「値引きするかしないか」だけに終始する会社は、レバーを1本しか握っていません。3本のレバーそれぞれに担当と施策を割り当てると、粗利目標は「祈る数字」から「動かす数字」に変わります。

目標を現場に共有するか、という悩ましい問題

粗利目標の運用で必ず出る論点が、現場担当者への開示です。「原価意識を持ってほしいから見せたい。しかし発注単価の情報が協力会社との関係に影響しないか」という悩みです。

実務の落としどころは、額ではなく達成度で共有する方式です。担当現場の予算に対する着地見込みの状況(月次原価管理の予実)は開示し、会社全体の利益額や個別の値決めの経緯は経営情報として扱う。現場が知るべきは「自分の現場が計画どおりか」であり、それだけで発注や段取りの判断は十分に変わります。開示の線引きを曖昧にせず、決めて運用することが大切です。

「稼働」というもう一つの物差し

最後に、率と額に続く第三の視点を付け加えます。月あたり利益、つまり自社の限られた施工管理者を何か月拘束していくら残るか、という稼働あたりの採算です。粗利率が高くても、工期が長く管理者を1人専任で縛る案件は、会社全体では効率が悪いことがあります。管理者の頭数が制約になっている中小建築会社ほど、この物差しが受注判断の質を変えます。

年に一度の検算: 決算書と目標を突き合わせる

目標を運用に載せたら、年に一度、決算書との検算を行います。損益計算書の完成工事総利益(粗利)が、期首に立てた必要粗利額に届いたか。届かなかったなら、原因は3つのどれかです。受注量が足りなかったのか、受注時の見積粗利が基準に達していなかったのか、受注時は良かったが工事中に原価が膨らんだのか。

この3つは対策の担当が違います。量の不足は営業戦略、見積粗利の不足は値決めと受注判断、工事中の目減りは現場の原価管理。決算の数字だけ眺めて「厳しい年だった」で終える会社と、どの段階で利益が消えたかを特定する会社では、翌期の打ち手の精度がまるで違います。期中の月次データが揃っていれば、この検算は1時間で終わります。そしてこの1時間が、次の期の目標を「去年の反省が織り込まれた数字」に変えるのです。

まとめ

粗利目標の決め方は、必要粗利額の計算、案件タイプ別の基準線、下限と値引き手続きの制度化、の3ステップです。一律で硬直せず、どんぶりで分散せず、値引きで空文化させない。3つの失敗はすべて、「率の相場」を借りて済ませようとしたことから始まっています。自社の数字で線を引く。それが採算管理の第一歩です。

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