労務費の積算のやり方|建築工事の歩掛と設計労務単価の使い方
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編集・発行:KMC株式会社
労務費の積算は「労務単価 × 歩掛 × 施工数量」で求めます。 歩掛(ぶがかり)は、単位数量の作業に必要な人工(にんく、1人が1日働く作業量)のこと、労務単価は1人1日あたりの賃金です。たとえば型枠1m2に型わく工0.15人が必要なら、1,000m2で150人工、これに型わく工の労務単価を掛けたものが労務費です。
2025年12月12日に完全施行された改正建設業法のもとで、中央建設業審議会が作成・勧告した「労務費に関する基準」も、適正な労務費を「公共工事設計労務単価 × 歩掛 × 数量」で考え、労務単価は設計労務単価を下回る水準にしないこととしています。
【早見表】労務費積算の3要素と根拠
| 要素 | 中身 | 何で決めるか |
|---|---|---|
| 施工数量 | 型枠の面積、鉄筋の重量、ボードの面積など | 図面からの数量拾い(建築数量積算基準) |
| 歩掛 | 単位数量あたりの必要人工(人/m2、人/tなど) | 自社実績、職長の見立て、公共建築工事標準単価積算基準などの標準歩掛 |
| 労務単価 | 1人1日あたりの賃金 | 公共工事設計労務単価(都道府県別・職種別)を下回らない水準。会社負担の経費は別に見込む |
労務費は「単価×数量」の数量が見えにくい費目
材料費は、数量を拾って単価を掛ければ形になります(躯体・仕上げ)。労務費は、何人日かかるかが図面のどこにも書いていません。それを推定する係数が歩掛で、精度の差はすべて歩掛の確からしさから生まれます。
まず整理: どこまでが「自社の労務費」か
建築一式の元請では、労務費の大半は協力会社への外注費に含まれており、自社が直接積算する労務費は限られます。
- 外注に含まれる労務: 専門工事の見積の中の労務。査定の対象です
- 直用・常用の労務: 自社雇用の作業員、手元・雑工・整理清掃などの常用手配。ここが人工の見積り対象です
- 自社管理者の人件費: 労務費ではなく現場管理費です
この記事の主対象は2つ目ですが、歩掛の考え方は外注見積の査定(この数量にこの人工は妥当か)にもそのまま使えます。協力会社の見積に労務費が内訳明示されても、元請が歩掛を知らなければ中身を検証できません。決算での区分(労務費・労務外注費・外注費)は月次原価管理を参照してください。
単価の側: 公共工事設計労務単価の中身
公共工事設計労務単価は、国土交通省・農林水産省が労務費調査をもとに47都道府県・51職種別に決める単価です。
- 令和7年3月適用: 全国全職種の加重平均値24,852円、単純平均で前年度比6.0%の引き上げ
- 令和8年3月適用(最新): 全国全職種の加重平均値25,834円、単純平均で前年度比4.5%の引き上げ。平成25年度の改定から14年連続の上昇
単価は所定労働時間内8時間あたりの額で、基本給相当額・基準内手当・臨時の給与(賞与等)・実物給与で構成されます。割増賃金、通常の作業条件を超えた労働への手当、法定福利費(事業主負担分)などの現場管理費、一般管理費は含まれていません(公共工事の積算では現場管理費等に計上)。
作業員本人に払う日当だけを単価にすると、会社負担の法定福利費・安全衛生経費・手当類が抜け落ちます。見積・予算では、雇用に伴う会社負担まで含めた「原価としての額」を見込みます。単価は毎年改定されるため、工事場所の都道府県・職種の最新の単価表で確認してください。
歩掛の側: 人工を見積る3つの情報源
必要人工の推定には、確からしさの順に3つの源があります。
- 自社の実績: 過去の類似作業で実際にかかった人工。最強の根拠です(後述の本題)
- 職長の見立て: 「この範囲なら3人で2日」という経験者の読み。サイクル工程の合意と同じく実行の裏づけがありますが、人による強気・弱気の癖があります
- 公刊の標準歩掛: 国土交通省官庁営繕部の「公共建築工事標準単価積算基準」などの標準値。出発点には有用ですが、現場条件(狭さ・高さ・搬入・居ながらの制約)で実態は大きく振れます
実務は「標準歩掛で当たりを付け、職長の見立てで補正し、実績で検証する」の三段活用です。労務費に関する基準も、歩掛は施工条件・作業内容に照らして受注者が責任を持って施工できる水準で設定するよう求めています。
【計算例】標準歩掛で型枠の労務費を出す
公共建築工事標準単価積算基準(令和7年12月改定、令和8年1月以降に入札手続を開始する官庁営繕工事に適用)は、普通合板型枠(ラーメン構造地上軸部、階高3.5〜4.0m程度)の1m2あたりの歩掛を、型わく工0.15人・普通作業員0.02人としています。この歩掛には工場加工・現場加工・現場施工が含まれます。数量は仮に1,000m2とし、単価は令和8年3月適用の全国平均値(型わく工31,671円、普通作業員23,605円)を参考に使います。
| 職種 | 歩掛(人/m2) | 必要人工(1,000m2) | 単価(全国平均値) | 労務費 |
|---|---|---|---|---|
| 型わく工 | 0.15 | 150人工 | 31,671円 | 4,750,650円 |
| 普通作業員 | 0.02 | 20人工 | 23,605円 | 472,100円 |
| 合計 | 170人工 | 5,222,750円 |
実際は工事場所の都道府県の単価を使い、階高・形状・搬入条件で歩掛を補正します。この額に法定福利費(事業主負担分)などは含まれません。型枠は外注が普通ですが、協力会社の見積を査定するときの当たり付けに使えます。
本題: 自社歩掛は「日報と出来高」から作れる
精度を根本から変えるのが自社歩掛の蓄積です。労務費に関する基準でも、歩掛よく(生産性高く)施工できる会社は競争上有利になると整理されています。作り方は日々の記録の割り算です。
- 日報から人工を拾う: 作業別の人数×日数。「何を・どこまで」を書く日報様式に整えます
- 出来高から数量を拾う: その期間に進んだ数量。出来高管理や工事写真の記録が使えます
- 割り算して記録する: 人工÷数量=歩掛の実績値(人/m2)。現場条件(階・搬入条件・作業環境)のメモを添えて台帳へ蓄積します
数件たまるだけで自社の物差しができます。実績単価データベースの労務版であり、工事台帳と同じく記録が見積を強くする例です。
ミニ演習: 常用班の人工を見積もってみる
事務室の間仕切りボード張り、施工数量300m2を、自社の常用班(2人1組)で行うとします。以下は仮の数字による演習です。
仮に、過去の実績から「この班は2人で1日あたり50m2張れる」と分かっているとしましょう。必要日数は300÷50で6日、必要人工は2人×6日で12人工。ここに、材料の荷揚げ・墨出し・清掃といった付帯作業を仮に1〜2人工、施工条件の補正(細かい間仕切りが多く切り物が増える、他職種と輻輳する時期)を仮に1割程度と見込んで、合計14〜15人工と読みます。付帯作業と補正の幅は、自社の実績から決めてください。あとは原価としての単価を掛ければ労務費です。
勘所は補正の目です。同じ300m2でも、大部屋4室と小部屋20室では手間がまるで違います。完工後は実際の人工を日報から拾い、読みとの差がどこで生まれたかを振り返る。この往復で歩掛が育ちます。
改正建設業法と「労務費に関する基準」で変わったこと
令和6年の建設業法改正(令和6年法律第49号)は、令和7年12月12日に完全施行されました。労務費の積算と見積に関わる主な点は次のとおりです。
- 労務費に関する基準: 中央建設業審議会が建設業法第34条第2項にもとづき作成し、令和7年12月に実施を勧告しました。適正な労務費は、公共工事・民間工事を問わず、下請取引を含めて確保されるべきものとされ、公共工事設計労務単価がその計算の基礎となる水準に位置づけられています
- 材料費等記載見積書(努力義務): 工事の種別ごとの材料費・労務費と、適正な施工の確保に不可欠な経費(法定福利費の事業主負担額、安全衛生経費、建設業退職金共済の掛金)などを記載した見積書を作成するよう努める(第20条第1項)
- 著しく低い見積りの禁止: 材料費等の額は通常必要と認められる額を著しく下回ってはならず(第20条第2項)、注文者も著しく下回るような見積りの変更を求めてはならない(第20条第6項)
- 原価割れ契約の禁止: 注文者による取引上の地位の不当利用に加え、受注者も、省令で定める正当な理由がある場合を除き、原価に満たない金額で契約してはならない(第19条の3第1項・第2項)
国土交通省は、職種分野別の「労務費の基準値」(単位施工量あたりの労務費)も公表しています(令和7年12月時点で13職種分野99工種)。基準値は標準的な条件での値で、個別の契約では現場条件に応じて補正し、基準値がない職種も設計労務単価×自社の歩掛で計算する、とされています。
常用で行くか、請負に出すか
人工が読めると、常用(自社の人工)と請負(外注)を比べられます。軸は3つです。価格(請負見積と自社人工×原価単価)、リスクの所在(請負は数量・品質の責任が相手に移り、常用は出来高が自社リスク)、班の稼働(手が空く時期なら多少の価格差でも内製が合理的なことがある)です。
労務費が「動く」要因を見込みに入れる
- 段取り待ち・手戻り: 人工の超過は待たせる現場が原因のことが多い。歩掛の問題と段取りの問題を分けて振り返ります
- 繁閑と単価の変動: 繁忙期の応援単価は上がります。資材と同じく労務にも市況があり、設計労務単価も毎年改定されます
- 天候・季節: 猛暑・寒冷期は作業効率が落ちます。夏の外部作業の歩掛を春と同じに見ないこと
- 休日の確保: 4週8閉所の工程では稼働日数が変わるため、日額単価や工期の見込みに反映します
- 少人数の非効率: 1人で行う細かな手直しは歩掛が悪化します。竣工前の是正対応の人工は厚く見込みます
歩掛×数量は必要人工であると同時に、所要日数の根拠でもあります。「この工期で本当に収まるのか」を人工の計算で検証できることは、無理な工期を受けない・受けさせないための交渉材料になります。
よくある質問
Q. 公共工事設計労務単価に法定福利費は含まれますか。 A. 含まれません。賃金に係る8時間あたりの単価で、法定福利費(事業主負担分)などの現場管理費や一般管理費は含まれないため、見積では別に見込みます。
Q. 民間工事でも労務費に関する基準は関係しますか。 A. 関係します。基準は公共・民間を問わず、下請取引を含めて適正な労務費が確保されるべきとしています。第20条の著しく低い見積りの禁止や第19条の3の原価割れ契約の禁止も、民間工事に適用されます。
まとめ
労務費の積算は、労務単価×歩掛×施工数量という骨格を押さえ、標準歩掛と職長の見立てで当たりを付け、日報と出来高から自社歩掛を育てることで、年々精度が上がっていきます。改正建設業法のもとでは、設計労務単価を下回らない単価と、自社で説明できる歩掛で労務費を内訳明示することが、見積の基本になりました。
出典・参考
- 国土交通省 報道発表資料「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和8年2月17日): https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001981942.pdf
- 国土交通省 報道発表資料「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和7年2月14日): https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001864366.pdf
- 国土交通省 官庁営繕部「公共建築工事積算基準類の改定 労務費等の見える化へ」(令和7年12月10日。公共建築工事標準単価積算基準の歩掛): https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001972218.pdf
- 国土交通省「改正建設業法『令和7年12月施行分』説明会」資料(改正後の条文、労務費に関する基準): https://roumuhi.mlit.go.jp/mlit-files/20260127_01.pdf
- 国土交通省 報道発表「持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます」(令和7年11月14日): https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00317.html
- 建設業法(e-Gov法令検索)第19条の3・第20条・第34条: https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100
※ 2026年10月1日:冒頭で労務費の積算式を言い切る構成に見直し、設計労務単価の位置づけと法定福利費の扱いの記述を国土交通省資料に合わせて直し、積算3要素の早見表、標準歩掛による型枠の計算例、改正建設業法と労務費に関する基準の解説、よくある質問・出典を追加しました。
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